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"朝四時の弁当を捨てた夫が、五分後にすがりつく理由" 第9話

「……拓也は、何て?」

「『母さんはで料理するのが趣なんだから、ついでに作っただけだろ。族の会社なんだから、タダで伝うのは当たりじゃないか。織はいちいち袈裟なんだよ』って」

織さんの唇が、悔しそうに震えていた。

「けなくて、涙がました。 私、拓也さんと結婚して、この会社を支えていくのが自分の役目だとっていました。 でも……あのは何も分かっていない。 部のフードコーディネーターや品コンサルタントにレシピを本依頼したら、発費だけで数万、ロイヤリティ契約なら売の数パーセントが消えるのがビジネスの常識です。 それを……何品分、お義母さんの善と労働をタダで踏み倒してきたのか。 会社はお義母さんから、数千万円単位の財産を搾取してきたも同然なんです」

「織さん……」

息子の妻が、実の息子よりも私の痛みを理解してくれている。 その事実に、胸が締め付けられるようだった。

「お義母さん、これを受け取ってください」

織さんは台帳のコピーを、私の膝のに押し戻した。

「今朝、お義父さんに突きつけた契約、違っていません。 黒ロジスティクス様は、証プライム企業の連結子会社です。 企業のコンプライアンス監査は、方の零細企業が考えているより遥かに厳しい。

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仕入れルートの透性、労働環境、財産の権利関係……すべてが審査対象になります。 もし、レシピの発者が社の個で、しかも無契約・無報酬で搾取されているなんて事実が監査で発覚したら、それだけで契約は発で解除されます」

織さんは内灯を消した。 暗がりので、彼女の瞳だけが鋭くっていた。

「お義父さんたちは、今夜も厨で失敗をねています。 焦げたタレと、ゴムみたいな肉のを作って、お互いに責任をなすりつけっています。 ……お義母さん。絶対に、妥協しないでください」

「ええ。分かっているわ」

私は類をしっかりと抱きしめ、をりた。 たい夜が、私の頬を叩いた。

夜半。

玄関のドアが乱暴にき、異様な臭気がのに流れ込んできた。 焦げ付いた醤油の匂いと、酸化した物の揚げ油の臭い。

廊をドカドカと歩いてきた正彦は、着をに放りし、キッチンのカウンターに突っ伏した。 ワイシャツの袖は油で汚れ、目は血り、髪はボサボサに乱れている。

リビングで帳簿をつけていた私に、正彦は獣のようない唸り声を向けた。

「おい……美代子」

「何かしら」

「ノートをせ」

正彦はふらつきながらちがり、私のにちはだかった。 酒の匂いと、焦げた調料の臭いが混ざりい、息が詰まる。

「森田の野郎、使い物にならん! 何回焼いてもタレが分しやがる! 肉はパサパサで、めたら噛み切れねえ! 挙句の果てに、原価を計算したら百円を超えやがった! 百円に収めなきゃ、コンペの類審査で落とされるんだよ!」

正彦は私の肩を乱暴に掴もうとを伸ばした。 私はをかわし、たい線で夫を見ろした。

「だから、何?」

「ノートだよ! おが分き溜めてきた、あの冊のノートだ! あれを全部、今すぐ会社に寄付しろ! おがレシピを差しせば、森田がに調できる! 黒のコンペを落としたら、千万円が消えるんだぞ! 社のメンツを潰す気か!」

「お断りします」

「なんだと!?」

正彦がを振りげた、まさにその瞬だった。

ピロリン、ピロリン。

静まり返ったリビングに、スマートフォンの甲い受信音が鳴り響いた。 正彦の胸ポケットに入っていた端末だった。

度だけではない。 続けて度、度。 会社のグループウェアからの緊急通を告げるバイブレーションが、正彦の胸元を激しく震わせる。

「……チッ、なんだよこんな夜に!」

正彦はいらち紛れにスマートフォンを引き抜き、画面を点灯させた。

その瞬、夫の顔から表が消えた。

画面に表示されていたのは、通の社内通達メール。 送信者の名は、【総務部コンプライアンス管理担当 林織】。 宛先には、代表取締役の正彦、営業担当の拓也、そして厨統括の森田さんの名が連なっていた。

件名: 【緊急勧告:黒ロジスティクス様向けコンペにおける財産権の帰属および社内コンプライアンス違反のリスクについて】

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