"朝四時の弁当を捨てた夫が、五分後にすがりつく理由" 第5話
今度は絶対に、俺のを引っ張るなよ」
命令だった。 謝罪も、謝も、反省のかけらもない。 ただ、自分が踏み台にしてきた妻の能力を、都のいい具としてもう度無償で差しせという、傲極まりない求。
私はテーブルのに線を落とした。 そこには、で冊に及んだ、私の「奪われた」の記録が積まれている。
「……分かったわ」
私がそう呟くと、正彦の顔に、分かりやすい堵と嘲笑が広がった。
「ふん、最初からそうやって素直に従えばいいんだよ。おにはどうせ、飯を作るくらいしか能がないんだからな」
正彦はを鳴らし、スーツのジャケットを脱ぎ捨ててソファへと倒れ込んだ。 拓也も「なんだ、脅かすなよな」とさく笑って伸びをしている。
はまだ、気づいていなかった。
私が言った「分かったわ」が、彼らの求を呑むというではなく、 この理尽な寄関係に、私自ので完全に終止符を打つ決を固めた言葉だったということに。
私のえ切った指先は、スマートフォンの画面で、ある番号を静かにスクロールしていた。 元のカルチャーセンターで料理教をいている、古いの連絡先だった。
翌朝、。
私はダイニングテーブルのに、枚のクリアファイルを置いた。
に入っているのは、自宅のプリンターで印刷したばかりの枚の類。
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番には、太いゴシック体でこう印字されている。
【業務委託契約(商品レシピ発および覚監修)】
向かい側の席で、正彦は嫌そうにインスタントコーヒーを啜っていた。 昨の今だ。 私が豆から挽いたコーヒーを淹れるのをやめたため、棚の奥にあった古いを自分で溶かしたらしい。 マグカップの縁には、溶け残った茶いダマがこびりついていた。
「……は? なんだこれ」
正彦はファイルに線を落とし、眉を激しく歪めた。 その隣で、社の拓也がトーストをかじりながら、怪訝そうに首を傾げている。
「業務委託契約よ」
私の声は、自分でも驚くほど静かだった。
「黒ロジスティクス向けの試会。私の塩麹鶏のレシピを使いたいなら、その類にサインと捺印をして」
「……お、本気で言ってるのか?」
正彦のが止まり、カップがガタッと音をてた。
「族ので契約だと? が狂ったのか! 夫の会社がピンチだってのに、よくもまあそんな図々しい切れを突きつけられたもんだな!」
「図々しいのは、どっちかしら」
私は背筋を伸ばし、類の第条を指先で示した。
「条件はつよ。 つ、品ごとの適正な試作当およびレシピ発費の支払い。 つ、黒ロジスティクス様へ提する提案、および採用のメニュー表における『レシピ考案・監修者』としての私の氏名記。
つ、今回提供するレシピの権利範囲の確化。会社が次利用するの覚の締結」
「ふざけるな!!」
正彦が鳴り声をげ、ファイルを乱暴に叩き返した。 類がテーブルのを滑り、に落ちる。
「主婦が台所でちょこまか作った飯のレシピに、を払えだと!? 名を載せろ!? おはただ、俺の指示通りにいていただけだろうが! 俺が『こういうにしろ』と言ったから、形になったんだ! 全部、俺のアイデアだ!」
「指示?」
私はに落ちたファイルを拾いげもせず、夫の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「あなたが言ったのは、『くて、ガッツリしてて、めても美いもんを作れ』。それだけよ。 そこから、凍肉のパサつきを抑えるための塩麹の浸漬を割りし、 量調理のスチームコンベクションで焦げ付かない糖度を計算し、 あたりの原価を百円に抑えるために調料のグラム数まで調したのは、誰?」
正彦の喉が、引きつったように鳴った。
「あなた、のフードコーディネーターにレシピ発を頼んだら、いくらかかるかってる? 品の発と試作、原価計算まで含めたら、万から万はらないわよ。 それを、あなたは何品分、私からタダで巻きげてきたの?」
「母さん、もうやめろよ!」
拓也が割って入った。 母親をなだめるためではない。
父親の嫌をこれ以損ねるな、という骨な苛ちだった。