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"朝四時の弁当を捨てた夫が、五分後にすがりつく理由" 第2話

「は……? な、なんで捨てるんだよ!」

「あなたが捨てろと言ったからよ。目障りだから、さっさとせって」

「あれはサンプルだぞ! 黒ロジスティクスの試会に持っていく、番事な現物だ!!」

正彦は叫び声をげながら勝を蹴破るようにしてびし、のゴミ集積所へとっていった。 もちろん、そこにはアスファルトの染みひとつ残っていない。 収集はもう、つ隣の区画へとりっただった。

息を切らし、のついた靴のまま廊に駆け戻ってきた夫の顔は、気を通り越して真っになっていた。

「おい……嘘だろ……。美代子、頼む、今すぐもう回作ってくれ! 半までにさなきゃ契約がぶんだ!」

代も半になった男が、なりふり構わず私の首を掴んできた。 骨がきしむほどい力。 けれど、そのは刻みに震えていた。

私はその震える指先を、めた目で見ろした。

「無理よ」

「な……なんでだよ! おなら分で作れるだろうが!」

「あれに使った鶏肉は、昨からかけて塩麹と汁に漬け込んでいたの。今からの肉を焼いたところで、調料が芯まで染み込むわけがないわ。めたら肉汁が抜けてパサパサになって、塩気だけが浮く。現の交代勤務のがべるものよ。そんな抜きのもの、せるわけがないでしょう」

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「誤魔化せばいいだろうが! タレを濃くするとか、レンジで温め直すとか、何でもいいから形にしろ!」

「形だけ繕っても、プロの仕入れ担当者にはで見抜かれるわ」

私が淡々と告げると、正彦の目が血り、逆した獣のように吼えた。

「つべこべ言うな! に乗れ! 央厨へって、の仕込み肉を使って今すぐ作り直すんだ! おも来い!」

私の腕を乱暴に引っ張ろうとする正彦の体を、私は真っ直ぐに見据えて押し返した。

「きません」

「……あ?」

「私は今、歩もをません」

の結婚活で、私が夫の求を真っ向から拒絶したのは、これが初めてだった。

「母さん、いい加減にしろよ! 父さんの会社がどうなってもいいのか!?」

リビングの空気が凍りついたところに、拓也が鳴り声をげて割り込んできた。 息子の顔には、母親への労わりなど微もなかった。 あるのは、崇拝する父親の初陣を邪魔されたことに対する純粋な苛ちだけだ。

「拓也の言う通りだ!」 正彦が息子の加勢を得て、再び胸を張る。 「おは俺の稼ぎで今まで飯をってきたんだろうが! 社の妻としての自覚はないのか! 夫が困っているにくだらないを張りやがって!」

くだらない。 その言葉が、私のの奥でチリチリと音をてて燃え広がった。

「私の自覚?」

私は静かに、けれど芯の通った声で問いかけた。

「正彦さん。私はこの、あなたがをすたびに、何種類ものメニューをこの台所で発してきたわよね」

「それがどうした! 族の仕事を伝うのは当たりだろうが!」

「伝い? ……そうね、あなたはいつもそう言っていたわ。でも、私が試作のためにスーパーを何軒も回って買い集めた材の領収、枚でも会社の経費で落としてくれたことがあった?」

正彦のが、わずかに引きつった。

「会社のメニュー発部員なら、毎料がて、発予算がついて、試作の失敗もすべて業務として認められる。でも私は? 活費のから肉を買い、調料を買い、失敗したら『飯がい』となじられ、成功したら『俺の付けのセンスがいいからだ』と会社に持っていく。私の名がメニューのどこかに載ったことが、度でもあったかしら」

「夫婦のでの話をするな! せこい真似をしやがって!」

「夫婦だからって、タダでの労働を搾取していい理由にはならないわ」

私の線は、正彦のネクタイから、そのろにつ織さんへと移った。 織さんは気まずそうに目を逸らし、元をで覆っている。

「第、あなたさっき言ったわよね。『こんな貧乏くさい飯で恥をかかせるな』って。あれを私の作った料理だと見していたからこそ、ゴミ箱に叩き落としたんでしょう? それが仕事のサンプルだと分かった途端に『なら払うから作れ』だなんて……恥ずかしいのは、どっちかしら」

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