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"台所へ追いやられた娘婿が、大晦日に義母を連れ去った夜" 第14話

お父さんにはもう、現のしはさせないわ。私が代表権のない会に押し込んで、専務と緒に会社をかしていく」

「そう。よく頑張ったわね、理恵」

「……それでね、お母さん」

理恵は信号待ちのに、助席のバッグから通のい封筒を取りした。 表面には、ひどく歪んだ、震える跡で『へ』とかれていた。

「お父さんから預かってきたの。病で、麻痺の残るでペンを握って、何もかけていてたわ」

私は無言でそのを受け取った。 封筒の角が、しだけ折れ曲がっていた。

アパートへ戻り、荷物を片付けた。 夕暮れの暗い部で、私は気も点けずに、その封筒をいた。

便箋には、インクの滲みとともに、揃いな文字が並んでいた。

『。 すまなかった。 入院して、になって、初めて分かった。 俺が威張り散らしていた、おがどれだけのを被り、どれだけの屈辱に耐えていたか。 の連が俺にをげていたのは、俺の腕ではなく、おの誠実さのおかげだった。 それを、俺は「誰ので飯をっている」と踏みにじった。 おというを、名を、俺が奪っていた。

理恵から、おの病気のことを聞いた。 駆けつける資格が、俺にはない。 許してくれとは言えない。 だが、もし許されるなら、もう度だけ、あのに戻ってきてはくれないか。

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社の子も、全財産の通帳も、すべておに渡す。 俺はただ、おの淹れてくれた茶を、もう度だけみたい』

文字の最は、涙の跡なのか、きく歪んで掠れていた。

歳にして、初めてった孤独と恐怖。 傲な王様が、すべてを失い、自らの罪のさに押し潰されて流した、遅すぎる懺悔の涙。

私は、便箋をゆっくりと折り畳んだ。 胸の奥を覗き込んでも、激しいりも、復讐のも、湧いてこなかった。 ただ、たく澄み切ったれみがあるだけだった。

「遅いのよ、お父さん」

声にして呟いた。 部の隅に、さく響いて消えた。

の歳は、枚の便箋の涙で洗い流せるほど、浅くはない。 あのが求めているのは、私の魂の回復ではない。 老いて体が自由になり、誰も寄り付かなくなった豪邸で、自分を無条件に介護し、世話をしてくれる「都のいい妻」のに過ぎないのだ。

私はちがり、引きしから便箋と万を取りすことはしなかった。 代わりに、携帯話をに取り、事に依頼していた弁護士の番号を押した。

「先、です。……ええ、体調はもう丈夫です。例の類、発送をお願いできますか」

数。 退院して自宅の豪邸へ戻った夫を待っていたのは、の消えた、底えのする静寂だった。

女の美子は寄り付かず、女の真紀は健司との婚問題で自に引きこもり、女の理恵は会社の再建で連泊まり込み。

政婦もいない広すぎる敷で、夫は自由なを引きずりながら、居のソファにぽつんと座っていた。

ダイニングテーブルのに、郵便受けから回収された通のきな封筒が置かれていた。 差は、静岡内の法律事務所。 受取は、正雄様。

夫は震えるで封をちぎった。 からてきたのは、妻の許しのでも、婚届でもなかった。

『通兼、別居期の権利義務に関する案』

然とした活字が、酷なまでにった法な言葉を並べていた。

、当事者双方は、本以、円満な別居状態を継続することを確認する。 、正雄は、に対し、法定の婚姻費用として毎万円を遅滞なく支払うこと。 、が経営する個調達事務所と産品卸との過の未清算数料、計千百万円を、分割にて速やかに弁済すること。 、自宅産および預貯の財産分与に関する公正証の作成に応じること。 、正当な理由なき面会の、話等による接触を切禁ずる。

類の末尾には、見慣れた、凛とした妻の直の署名と、実印が鮮に捺されていた。

。

夫は、その類を握りしめたまま、言葉を失った。 鳴る相も、座する相も、そこにはいなかった。 ただ、見し続けた妻が、切のに流されることなく、法と制度の鉄の壁を築いて、自分を完全に締めしたという徹な事実だけが横たわっていた。

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