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"台所へ追いやられた娘婿が、大晦日に義母を連れ去った夜" 第1話

晦の夜。 座敷の引き戸がいた瞬、あのの鳴り声が廊にまで響いた。

「おい、配係。おの席はそこだ」

夫が顎で指図した先は、たい隙が吹き込む台所の勝だった。 同然の板のに、あせた緑のプラスチック丸子が、ぽつんとつ置かれている。

座敷の央には、黒塗りの座卓。 のを背にした座には、女の夫がふんぞり返っていた。 内でも広くを展している会社経営者。 夫が昔から番気に入っている自の婿だ。 元には、駿湾の酒「磯自」の瓶。 卓のには、私が昨晩から骨を折って仕込んだアワビの旨煮と、刺の盛りわせがずらりと並んでいた。

女の婿である健司さんは、ったままかない。 今で歳。 夫が創業した産品卸で、もうも型凍のハンドルを握り続けている。 真の夜、凍結した名速をり抜け、末始も休まずに魚箱を担ぎげてきた男だ。

「お父さんの言う通りにしなよ。みっともない」

女の真紀が、夫に同調して甲い声をげた。 姉の夫と自分の夫のなりを見比べ、いたたまれないように顔を歪めている。

「あんたみたいなトラック運転が、社席の並びに座れるわけないでしょ。恥をかかせないで。さっさとそこでべて、の便の点検でもってきなさいよ」

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健司さんは何も言い返さなかった。 ただ、作業着のズボンの脇に揃えた拳を、静かに、く握りしめていた。 爪のに染み付いた魚の油と、洗っても落ちない気の匂い。 このがどれだけをすすってこのの支えをしてきたか、この座敷にいる誰として見ていない。

「聞こえんのか。送迎の運転を、晦にタダ飯わせてにげてやってるんだ。ありがたくえ」

夫が盃をあおり、品な濁った笑い声をげる。 歳。 代でこの品卸を築きげたと自負し、族全員を自分の所物だとい込んでいる男。 では気のいい老舗の社を演じているが、のでは自分の嫌つで全てを支配できると信じて疑わない。

喉の奥が、からからに渇くのをじた。 私は台所の流しのにち、でかじかんだ指先を見つめていた。 歳。 結婚して。 夫の会社の仕入れ調、伊豆や焼津の頑固な仲買との交渉、末の緊急配。 表向きは夫の功績とされてきた仕事の半分以を、私が個でちげたさな事務所で引き受けてきた。 だが、夫にとって私は「話番のババア」でしかなかった。

「おい、ババア。ビールが空だ。く持ってこい」

座敷から夫の声がぶ。 私がこうとした、そのだった。

音がして、勝の丸子からちがった健司さんが、台所へ入ってきた。

そのには、もをつけていないめた煮物の鉢があった。

健司さんは流しの脇に鉢を静かに置くと、私の横にった。 荒れた分い。 寒ので荷台をけ閉めし続けた指先が、かすかに震えている。

「母さん」

く、押し殺した声だった。 座敷の騒ぎにかき消されそうなほどさな、けれど私の鼓膜をまっすぐに揺らす声。

「もう、ここをますか」

臓が、どくりとねた。 呼吸が止まりそうになった。

誰にも言っていなかった。 夫の理尽な号に耐えかね、弁護士と相談しながら、ヶから準備をめていたこと。 無償同然で請け負ってきた会社の特殊調達契約を、今の付で完全に解除する続きを済ませていたこと。 実印も、通帳も、登記類も、すでに元に揃えてあること。

すべて、誰にも話していなかったはずだった。

「……健司さん、あなた」

「、裏のに回してあります」

健司さんは私の目を見て言った。 切の揺らぎがない、静かな瞳だった。 、義父からどれだけ理尽な暴言を吐かれても、妻から見されても、黙々とハンドルを握り続けてきた男の顔だった。

「母さんが、このでどんな扱いを受けてきたか。俺はずっと見ていましたから」

胸の奥の、何も氷漬けになっていた所が、音をてて軋んだ。

女も、女も、女も、誰も見ようとしなかった私の姿を。

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