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"挙式前夜に「家を寄越せ」と迫る娘と、席を捨てた母" 第14話

「真央、いい加減にしなさい!」 私は斎に踏み込み、娘の肩をく掴んだ。 「現実を見なさい! お父さんはもうもにくなったのよ! この机に縛り付けられて、自分のを棒に振るつもりなの!?」

「うるさい! あんたに何が分かるのよ!!」 娘は私のを振り解こうと暴れた。 その拍子に、娘の肘が斎机の側――番い引きしの鍵穴にく打ち付けられた。

カチリ。

経劣化で錆びついていた真鍮の鍵が、鈍い音をててれた。

「あっ……」 娘のきが、凍りついたように止まった。

、度もけられることのなかった引きし。 鍵が壊れてきっぱなしになっていたはずのその引きしが、わずかに数センチ、に滑りしてきたのだ。

隙から、埃の匂いと共に、カサリとが擦れる乾いた音がした。

娘が、吸い寄せられるように震える指を伸ばす。 引きしを、気に引きした。

に入っていたのは、権利証でも、預通帳でもなかった。

茶く変した、通の分い便箋。 その封筒の表には、に見慣れた、懐かしい夫の几帳面な跡で、こうかれていた。

『弓子へ――僕がいなくなったのこと』

付は、夫が息を引き取るわずか週。

娘の呼吸が止まった。 私の臓が、痛いほど激しくねがった。

引きしの奥から転がりた、茶く変した通の封筒。

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そこに並んでいたのは、紛れもなくに旅ったの夫の、几帳面でしがりの跡だった。

『弓子へ――僕がいなくなったのこと』

「……な、何よこれ」

真央の掠れた声が、埃のう斎に落ちた。 机にすがりついていた娘の指先が、吸い寄せられるように封筒へと伸びる。 だが、そのが触れる寸、私は歩踏みし、封筒を静かに拾いげた。

、暗ので眠り続けていたのたさが、のひらからじんじんと伝わってくる。

「返しなさいよ!」 娘が血相を変えて掴みかかってきた。 「お父さんが遺したものよ! 私に見せる権利があるでしょ!」

「真央、表をよく見なさい」 私の声は、く、静かだった。 「ここには『弓子へ』といてあるわ。あなた宛てではない」

「お母さん宛てだからって、私に関係ないわけないでしょ! どうせあんたに宛てて、私を頼むとか、このを真央に譲れっていてあるに決まってる!」

娘は肩をらせ、勝ち誇ったような線を私に突き刺してきた。 んだ父親は、どこまでも自分の方であり、母親を縛り付ける鎖であるはずだ――そう信じて疑わない瞳だった。

私は封筒の糊付けを、指先でゆっくりと剥がした。 便箋を取りすと、万の青いインクが歳を経て黒ずみ、丁寧に折り畳まれていた。

震える指でをく。 産の橘さんも、廊につ健司さんも、息を殺して私を見つめていた。

『弓子へ。 このを読んでいるということは、僕の命はもう尽きてしまったのだろう。 病気が分かってからの、君には苦労ばかりかけてしまったね。本当にすまない』

冒の数を目にした瞬、喉の奥がきゅうと締め付けられた。 病院のいベッド、痩せ細っていったの夫の、消え入りそうな声で「ありがとう」と繰り返していたあのの々が、鮮烈に脳裏に蘇る。

私は呼吸をえ、声をして読み始めた。 娘に、言句、聞き漏らさせないように。

『真央が成するまでは、父親のいない寂しさをじさせないよう、どうか守ってやってほしい。けれど弓子、君は母親であるに、のだ。 もし真央が自し、君のに良いが現れたなら――躊躇うことなく、そののを取りなさい。僕への義理てなど、絶対にしないでほしい。君には、君自のを幸せにき直す権利がある』

真央の顔から、さっと血の気が引いた。

「……え?」

『この杉並のは、君の老の活を守るための盾として遺す。 古いだから維持も変だろう。もし持て余すなら、売って君の活資に充てて構わない。真央に慮して、自分の処やおをけ渡すような真似は決してするな。 子どもはいつか親の元をり、自分のできていくものだ。真央を甘やかし、君のの荷にしてはいけない。

君がこれからので、から笑って暮らせることを、僕は誰よりも願っている』

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