"挙式前夜に「家を寄越せ」と迫る娘と、席を捨てた母" 第13話
法律で定められた通り、売却益から健司さんが負担してくれた過の修繕費と固定資産税を全額清算し、残った額を、あなたとお母さんで半分ずつ、円単位まで正確に分ける『換価分割』の続きを取ります」
「売却……?」 娘の瞳が、恐怖で見かれた。 「売るって……お父さんのを!? に売り払うっていうの!?」
「そうです」
「冗談じゃないわよ!!」 娘は髪を振り乱し、狂ったように叫んだ。 「ここは私とお父さんのよ! お父さんのいが詰まった所なの! 売るなんて絶対に許さない!!」
娘の反応に、私は奇妙な違を覚えた。 もしこの子が、輔との居のためにやを欲しがっていただけなら、「半分が現でに入る」という提案は、決して悪い話ではないはずだ。
だが、娘の絶叫は、まるで自分の臓をもぎ取られるかのような、異常な恐怖に満ちていた。 銭の損得勘定を超えた、ドロドロとした執着。
「お父さんを……お父さんを度殺す気!?」 娘は涙とで顔をぐしゃぐしゃにしながら、玄関の柱にすがりついた。 「お母さんが再婚しただって、私は耐えたのよ! らない男が私のにがり込んできて、お父さんの座ってた所に座って……! それでもこのがあったから、お父さんがここにいてくれたから、私は耐えられたんじゃない!!」
娘のから溢れたのは、、度もにしなかった本音だった。
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「このを売ったら、お父さんが完全に消えちゃうじゃない……! 絶対に売らせない! 誰にも渡さないんだから!!」
娘はそう喚き散らすと、私の返事も待たず、逃げるようにへ駆けしていった。 乱れた音が、夕暮れのに響き、消えていく。
私は、娘がすがりついていた柱を、そっと撫でた。 柱には、娘が学の頃、背丈を測って刻んださな傷が残っている。
娘が執着していたのは、資産価値などではなかった。 んだ父親の霊。 そして、「父親を裏切ってしいを歩み始めた母親」を責めてるための、唯の免罪符だったのだ。
それからの曜。
午、自宅のに台のい営業がまった。 からりてきたのは、紺のスーツを着た産会社の査定員・橘さんだった。
「初めまして。司法士の先よりご紹介いただきました、橘と申します」 名刺を受け取り、私と健司さんは彼を居へと案内した。
「築数は経っておりますが、壁や根の入れが非常に丁寧にき届いておりますね」 橘さんは図面と建物の状態を見比べながら、したように頷いた。 「基礎の防腐処理もしっかりされていますし、これなら更にせずとも、リノベーション物件として分な値で買いがつくかといます」
「ありがとうございます。
夫が、ずっと入れをしてくれていたんです」 私が微笑んで健司さんを見ると、夫はし照れくさそうにを掻いた。
査定のために、内の写真を撮することになった。 居、台所、呂、そして階へ。
橘さんが階段をがり、階の廊をんだ、そのだった。
ガタガタガタッ!!
突如、階の勝のドアが激しい音をてていた。 何かが倒れる音。そして、荒い呼吸と共に、階段を狂ったように駆けがってくる音が響いた。
「真央……!?」
振り返った私の目にび込んできたのは、血った目をした娘の姿だった。 鍵を使って勝から忍び込んできたのだ。
「触るなあああっ!!」
娘は獣のような鳴をげながら、カメラを構えていた橘さんを突きばした。 橘さんは壁に背を打し、類をにぶちまける。
「おい、真央ちゃん、やめなさい!」 健司さんが割って入ろうとしたが、娘の狂気はそれをすり抜けた。
娘が向かったのは、廊の突き当たりにある、の夫が使っていた畳の斎だった。 夫がくなってから、ほとんどをつけていなかった部。
「入るな! 誰も入るな!!」 娘は部のにび込むと、部の隅に置かれたなマホガニーの机に覆いかぶさった。 き夫が用していた、い斎机だった。
両腕で机を抱え込み、に爪をてて威嚇するように私を睨みつける。
「売らせない……売らせないから! ここはお父さんの部なの! この机も、本も、全部お父さんのものなんだから!!」