"26年尽くした家を出る私を、車椅子の娘は無表情で見送った" 第9話
「お母さん」
彩は涙をの甲で乱暴に拭い、机のの取げ通をぐしゃりと握りつぶした。
「、お母さんは私のの鍵を奪った。でも、もう度と奪わせない」
彩は隣に座る林芽さんのをしっかりと握り直した。
「私、来週から訓練に入る。どんなに失敗しても、ベッドから落ちてで晩泣くことになっても、絶対にあの部にく。……お母さんの『作品』でいるのは、もう終わり」
私は、言も返せなかった。 唇が刻みに震え、指先は氷のようにたくなっていた。 助けを求めるように坂井さんを見たが、坂井さんはただ痛な面持ちで目を伏せるだけだった。
私の方は、この部にはもう、もいなかった。
そのだった。
それまで黙ってやり取りを聞いていた夫が、ふっとさくを鳴らした。
夫はテーブルのに肘をつき、散らかった類のから、訓練のパンフレットを無造作に指先で引き寄せた。 そして、そこにかれた所と、取り図をじっと見つめ始めた。
その瞳の奥に宿ったのは、娘の自を応援する父親の温もりなどでは決してなかった。
獲物を値踏みするような、たく濁った、計算い。
夫の線は、パンフレットの『隣の介護施設・医療関マップ』という欄に、じっと注がれていた。 そして、夫の元が、わずかに歪んだ。
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「……へえ」
夫の喉から漏れた、く湿った呟き。
「駅の公営アパートか。……エレベーター完備で、すぐ隣には訪問護ステーションもあるのか。便利な所だな」
夫は何を考えているのか。 その気悪い線のに、激しいの嵐のにいた彩も、罪の識で押しつぶされそうになっていた私も、まだ誰も気づいていなかった。
あのの夜のことは、今でもうまくいせない。
どうやって宮本の玄関をて、どうやって自分のアパートへ戻ってきたのか。 気がつけば、え切った畳の真んで、靴も脱がずに膝を抱えて座り込んでいた。
部のは、息がくなるほどえていた。 エアコンのリモコンにを伸ばす気力すら湧かなかった。
網膜の裏に、あの茶い封筒と、机のに叩きつけられたの文字が焼き付いてれない。
『自活体験事業 利用申請取げ通』
「……あの子のの鍵を奪ったのは、私だった」
声にした瞬、胃の底からせりがってきた吐き気に襲われ、私は元を押さえて畳に突っ伏した。
娘を守るため。 怪をさせないため。 失敗して、あの子が惨めないをしないように。
そんな綺麗な言葉で塗り固めていたものの正体が、あのでのに晒されたのだ。 私が守りたかったのは、娘じゃない。 「障害のある娘ををにして支える、派で献な母親」
という、自分の惨めなを支える最の板だった。
もし彩がで暮らせるようになったら。 もし彩が私のをれて、自分の世界を持ってしまったら。 私はあので、ただ義母に罵倒され、夫に無されるだけの「無料の政婦」に成りがる。
その恐怖から逃げるために、私は娘の翼をもぎ取ったのだ。 母親ので。 という名の、最もタチの悪い猛毒を使って。
喉の奥が張り裂けそうに痛かった。 声をさずに泣いた。 畳の隙に涙が吸い込まれていくのを、ただじっと見つめることしかできなかった。
それから週、私は誰とも言葉を交わさなかった。
彩に連絡を入れることなど、できるはずもなかった。 「ごめんなさい」の言すら、今の私にはにする資格がない。 携帯の画面を見るのが怖くて、充器を抜いたまま引きしの奥へ放り込んでいた。
最限の料を買いに所のスーパーへく以は、暗い部でじっと膝を抱えて過ごした。 の主婦活で、度もわったことのない「何もしなくていい」。 それが、まるでい懲役のように私の体にのしかかっていた。
常が破られたのは、の半ば、底えのする曜の昼がりだった。
固定話のないアパートで、久しぶりに引きしから取りして源を入れたスマホが、狂ったように震え始めた。
着信画面に表示された名に、背筋がたくなる。