"6年介護した義父から「息子を信じるな」と電話が来た" 第10話
ただ、現実のみに押し潰された男の、掠れた音だった。
「ええ。産の件も、弁護士の件も、すべて通が届いているはずよ」
「会社……終わったよ」
浩司は靴を履いたままに座り込み、力なくを垂れた。
「形が落ちなかった。請けの連が事務所に押しかけてきて、材もも全部持ってかれた。来週、破産管財と会う……。俺は、全部失ったんだ」
「そう」
「なお子、頼むよ……。俺が悪かった。親父のことも、おのことも、追い詰められて魔が差したんだ。やり直そう。をて、でさなアパートでも借りて、から……」
すがろうとして伸ばされた夫のを、私は静かに、けれど決定に避けた。
「魔が差したんじゃないわ。あなたは、度もお義父さんの体を拭かなかった。私が倒れそうになっていても、見ないふりをして夜のへ逃げていた。それがあなたの本質よ」
浩司の目が、絶望に揺れた。
「私はもう、あなたの母親代わりにも、都のいい代わりにもならない。……さようなら、浩司さん」
私はつの段ボールを軽自の荷台に積み込み、度も振り返ることなくアクセルを踏んだ。
バックミラーに映る古びた本が、しずつさくなり、角を曲がったところで界から消えた。の歳に、ピリオドが打たれた瞬だった。
それからヶが過ぎた。
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私は駅くの築を超える古いアパートのを借り、しい活を始めていた。
取りは畳ひとのワンルーム。具は、リサイクルショップで揃えたさなローテーブルと、用の布団、そしてさな蔵庫だけだ。
所のスーパーの惣菜コーナーで、朝から昼過ぎまでのパートの仕事を始めた。ぷらを揚げ、煮物をパックに詰め、陳列する。ち仕事での裏は痛むが、どれだけ体をかしても、は驚くほど軽かった。
自分の働いた対価として座に振り込まれる、数万円の与。
誰の嫌を伺うこともなく、自分のためだけに根を煮て、好きなに呂に入り、好きなに眠る。
夜に誰かの咳払いや物音に怯えてび起きることもない。
最初の数週は、夜に目が覚めて「お義父さんの体位変換をしなきゃ」とパニックになることがあった。だが、隣に誰もいないたい畳に触れるたび、私は自由になったのだという実が、じわりと胸に染み渡っていった。
浩司の自己破産続きは淡々とみ、弁護士を通じて届いた婚届には、彼の震えるような跡で署名がなされていた。あの実は、義父の向により、弁護士の管理でいずれ正規の価格で売却され、義父の将来の介護費用として信託座で管理されることになった。
浩司の借の返済には、円たりとも使われない。
の旬、枯らしが吹き始めた曜の午。
私は私鉄のに揺られ、つ隣の駅にある介護付き料老ホーム「こすもすの里」を訪れた。
義父が、自らのと義母の遺産を充てて入所を決めた所だった。
エントランスをくぐると、清潔な廊の奥から職員たちのるい挨拶が聞こえてきた。受付で面会簿に旧姓の名を記入し、階の居へ向かう。
「忠雄さん、面会ですよ」
スタッフの声に促されて部に入ると、窓際のリクライニングチェアに座った義父が、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「おお……なお子さんか。寒かったろう、入りなさい」
義父の顔を見て、私はわず目を見張った。
自宅で寝たきりにかった頃の、気だった肌には健康な赤みが差し、無精髭は綺麗に剃りげられていた。何より、背筋がすっと伸びている。
「お義父さん、顔がすごくいいですね」
「そうか? 毎朝、理学療法の先にしごかれとるからな。ほら、見てみろ」
義父はそう言って、麻痺の残るを自力でから数センチ持ちげて見せた。わずかなきだったが、自宅にいた頃には考えられない回復だった。
「すごい……! くようになったんですね」
「ここでの寄り連とリハビリを競いっとるんじゃ。
負けられんからな」
悪戯っぽく笑う義父の表は、私が嫁いできた数、まだ元気だった頃の頑固親父そのものだった。