"6年介護した義父から「息子を信じるな」と電話が来た" 第8話
「たかが……?」
私のから、くえ切った呟きが零れた。
「あなたにとっては『たかが』だったのね。たりともオムツのさを量ったことも、夜に痰が絡んで苦しむ呼吸に怯えたこともないあなたには、そう言えるのね」
「そ、それは……! 俺にはで稼ぐ役目があったからだろ! 誰のおかげでこのが回ってきたとってんだ!」
「その稼ぐ役目を放りして借をね、挙句の果てに父親のを騙し取ろうとしたのが、あなたの言う『役目』なの?」
浩司の顔が真っ赤に鬱血し、喉仏が激しくした。かつては町の請けで油にまみれ、実直に働いていた面はどこにもない。そこにあるのは、自らの失敗を直できず、者に責任を擦り付けることでしか自を保てない男の醜態だった。
「いいか、なお子。おが勝にていくのは勝だが、銭もやらんぞ! も、財産も、何つ渡さないからな!」
「財産なんて、もともと何もないでしょう」
私は静かに、けれど逃げのない事実を突きつけた。
「会社の借は千百万以。個保証も入っている。あなたがこのを売れなければ、いうちに形は落ちず、渡りをして倒産する。……違うかしら?」
浩司の息が詰まった。
「私はもう、あなたの配偶者としてその負債に巻き込まれる気はありません。この用には私の署名と捺印が済んでいます。
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もし拒否するなら、弁護士を通じて庭裁判所に婚調を申してます。あなたが認症でもないお義父さんを騙し、当に財産を処分しようとした事実、そして私を精神に追い詰めた経緯は、すべて包括支援センターの記録に残っていますから」
「お、おい……内の恥をに晒して、俺を刑務所に送る気か!?」
浩司は取り乱し、子の義父に向かってすがりつくように膝をついた。
「親父……! 親父からも言ってくれよ! こいつ、佐藤の嫁のくせに恩を仇で返そうとしてるんだ! 俺が自己破産したら、佐藤の名は終わりなんだぞ! 頼むから、度だけでいいからあの売却類に判を押してくれ! 今に付が入らなきゃ、取引先の社に何をされるか分からないんだ!」
取り乱した息子のを、義父は子のからややかに見ろしていた。
その瞳には、血を分けたが子への憐すら残っていなかった。かつて代でさな設備会社をちげ、くの職を束ねていた頃の、厳格な経営者の差しだった。
「浩司」
義父の擦れた声が、く相談の壁を震わせた。
「おは、どこまで落ちぶれれば目が覚めるんじゃ」
「親父……!」
「会社を潰したのは代のせいでも、嫁さんのせいでもない。おが目先のに目が眩み、取引先を蔑ろにし、放漫に甘えた結果だ。
親のを奪い、の世話までしてくれた嫁を『厄介払いしたがっている』と嘘をついて追いそうとする……そんな男に、佐藤の名を名乗る資格など最初からない」
「じゃあ……俺を見捨てるのかよ!? 実の息子だぞ!」
「見捨てたんじゃない。お自が、族を捨てたんじゃ」
義父は麻痺の残る腕をで支え、机のにしっかりと拳を置いた。
「は売らん。坪たりとも、おには渡さん。自分の始末は、自分でつけなさい」
「親父ッ……!」
浩司が狂乱し、義父の胸倉を掴もうと両を伸ばした瞬、それまで背に控えていた男性職員が素くその両腕を制圧した。
「そこまでです、佐藤さん」
ケアマネジャーの川さんが、凛とした厳しい声でに踏みしてきた。
「ここは入所者様がを休めるための介護施設です。ご本が確に拒絶されている以、これ以のや接触は、齢者虐待防止法に基づくち入り制限、ならびに警察への通報対象となります。直ちに敷へ退してください」
「放せ! 俺は男だぞ! 族の問題にが首を突っ込むな!」
見苦しく喚き散らす浩司の姿を、施設の相談員が徹な線で見据えていた。
「所者ご本の確なに反した連れしや迫は、族であっても犯罪になり得ます。ご退いただけないなら、今すぐ〇番します」
警察という言葉を聞いた瞬、浩司の体から急速に力が抜けた。
職員に腕を解放された浩司は、肩をきくさせ、乱れた髪を乱暴に掻き揚げた。