みかん小説
本棚

"「ママって呼んじゃだめ」そう泣いた五歳の娘" 第12話

「野寺健吾さん。こちらは、貴方が莉奈さんに対してっていた説の記録、ならびに幼稚園の事に関して美咲さんを欺いていた客観な証拠式です。また、さんご本からも、弁護士同席のもとで陳述を提していただいております」

テーブルのに、数枚の面が滑りされた。

そこには、健吾が莉奈に送っていたメッセージの履歴――「妻もとの接触を承諾している」「もう婚のは取れている」という虚偽の文言が、系列順に克に印字されていた。

健吾の喉仏が微かにいた。

「莉奈が……何を喋ったんだ」

「さんは、貴方が既婚者であることを承ので交際を継続していた事実を認め、美咲さんに対する法為責任を全面に受け入れています」

佐々先の淡々とした調が、会議の空気をたく引き締めていく。

「彼女はすでに、貴方との連絡を切断つ向を示しており、会社にも私活におけるトラブルの報告を済ませています。貴方が取引関係を利用して彼女を抱え込もうとしたことも含め、相応のペナルティを受ける覚悟を決めておられますよ」

健吾の顔が青ざめ、それから屈辱に歪んだ。

「あいつ……裏切りやがったのか」

「裏切ったのは、貴方のほうでしょう」

私は元に線を落とすことなく、健吾をまっすぐに見据えてをいた。

広告

「さんに対しても、私に対しても。そして何より、に対して」

健吾は息を荒らげ、逃げを失った獣のように私を睨み返してきた。

「またそれかよ。美咲、おは昔からそうやって物事を針棒に騒ぎてるんだ。たかが回の保育参観だぞ。男がし羽目をして、若い女にいい顔をしたくて連れてっただけじゃないか。浮気なら謝る。慰謝料だって、相通り払えばいいんだろ」

「羽目をした?」

「そうだ。だって、莉奈の膝ので笑ってたじゃないか。しお菓子をもらって、遊んでもらっただけだ。あいつはまだ歳だぞ。半も経てば、参観のことなんて綺麗さっぱり忘れるに決まってるだろ!」

健吾は吐き捨てるように言い放ち、両を乱暴に組んだ。

「子どもなんて、そんなもんだ。がいつまでも根に持って、余計な恵をつけるから怯えるんだよ。げさに被害者ぶるな!」

その言葉が落ちた瞬、私ので、夫というに対する最のわずかな温もりが、完全に消え失せた。

この男は、本当に何も分かっていないのだ。

自分がどれほど残酷な刃を、が子のさな胸に突きてたのか。その痛みに気づこうともせず、ただ自分の浅ましさを覆い隠すために「子どもはすぐ忘れる」と言い切る。

私はく息を吸い込み、静かに、けれど語語をそのに刻み込むように言った。

「あの子はね、あのどこの子に座っていたかは忘れるかもしれない」

健吾がぴくりと眉をかした。

「幼稚園の教の匂いも、貼ってあった画用のも、いつか全部忘れてしまうかもしれないわ。でもね――」

私はテーブルのに両を置き、健吾の瞳の奥を射抜くように見つめた。

「自分の母親を『ママ』って呼ぶのを怖がった記憶は、そんなに簡単には消えないのよ」

健吾の唇が半きになり、言葉を失った。

「母親の顔を見て、抱きつくことすら許されず、『呼んだら誰かが泣いてしまう』と怯えながら謝ったあの瞬の恐怖は、あの子ののに澱のように残るの。それをいたのは、でもない父親であるあなたよ」

会議に、張り詰めた沈黙が落ちた。

健吾は何かを言い返そうと喉を鳴らしたが、その線は泳ぎ、やがてテーブルの目へと落ちていった。

「子どもは忘れる、じゃない。あなたが、自分のしたことから目を背けて忘れたいだけでしょう。自分の見栄と欲望のために娘の無垢なを質にしておいて、父親面をするのはやめて」

佐々先が、あらかじめ作成してあった婚協議のドラフトを健吾のに差しした。

「協議婚の条件です。親権者は母である美咲さん。養育費は算定表に基づき、学卒業まで毎指定座へ振り込むこと。

未払いが度でも発したは、与の差し押さえ続きに即移します。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: