"「ママって呼んじゃだめ」そう泣いた五歳の娘" 第9話
私、目が覚めました……本当に、取り返しのつかないことをしました」
私はそれ以何も答えず、伝票をに取ってレジへと向かった。
胸の奥に残ったのは、勝利でも堵でもなく、ただ底れない徒労だった。
健吾という男の輪郭が、いよいよ確になっていく。
彼は妻を欺き、を欺き、歳の娘のを踏み躙りながら、そのすべての責任を「妻のヒステリー」に転嫁しようとしている。どこまでも自分だけが被害者であり、正当なであるという殻に閉じこもっているのだ。
そんな男と同じ根ので、を分秒たりとも過ごさせるわけにはいかなかった。
*
そのの夕方、を園へ迎えにき、私たちはそのまま実へと向かった。
私の両親は、隣町の古い軒に暮らしている。突然きなボストンバッグを抱えて現れた私との姿を見て、母は何も聞かずに玄関の鍵をけ、奥のに布団を敷いてくれた。
「ちゃん、ばあばとお呂に入ろうか。しい入浴剤があるのよ」
母の優しい配慮に甘え、が浴へ向かった、私は居で父にこれまでの経緯をすべて話した。
定退職、無に庭いじりをしながら暮らしている父は、私の話を途で遮ることなく、腕を組んで最まで静かに聞いていた。私が帳のメモや写真を見せても、声を荒らげることはなかった。
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だが、私が「が母親を呼ぶのを禁じられていた」と告げた瞬、父のいのひらが、膝ので微かに震えたのを私は見逃さなかった。
「美咲」
父はく、落ち着いた声で言った。
「おがどうしたいかは、もう決まっているんだろう」
「……うん。婚する。は私が引き取る。健吾には、度とあの子のを弄ばせたくない」
「そうか。なら、でくな。法と現実を方につけろ。をてここへ来たのは正しい。だが、勝な連れりだと相に主張されないよう、番で専のところへくぞ」
父はちがり、古い話帳から枚のカードを取りしてきた。かつて父が勤めていた会社の顧問弁護士から紹介されたという、事事件を専に扱う弁護士の連絡先だった。
翌朝、父の付き添いのもと、私はさいたま内の法律事務所を訪れた。
担当の女性弁護士、佐々先は、代半ばの理な佇まいのだった。彼女は私が提示した幼稚園の記録、健吾とのメッセージ履歴、莉奈との面談記録を丁寧に確認し、即座に点を理してくれた。
「結論から申しげますと、奥様がちゃんの主たる監護者として認められる能性は極めていです」
佐々先はペンを置き、まっすぐに私を見つめた。
「本の現法において、歳という齢であれば『母性の優先』や『現状維持の原則』がく働きます。
ましてや今回、夫側が貞相を園の事に当に関与させ、子どもに母親への隠蔽をしていたという事実は、監護養育環境として極めて害であると判断されます。これは親権を争うで、決定な材料になります」
「健吾は……『パートのおがで育てられるわけがない』と言っていました」
私がにすると、佐々先は淡々と首を横に振った。
「経済力だけで親権が決まることはありません。分は養育費として夫側から支払わせるのが法の建です。また、別居期の活費として『婚姻費用』の分担請求を直ちにいます。算定表に基づき、夫の収から算した額を毎支払う義務が彼にはじます。払わなければ与の差し押さえも能です」
「……差し押さえ」
「ええ。相が何を喚こうと、法律のレールのに乗せてしまえば、彼の勝な理屈は通用しません。まずは本付で、別居の通と婚姻費用の分担請求、ならびに子どもへの無断接触を禁じる受任通を、内容証郵便で夫の自宅および職へ送付します」
佐々先の澱みのない言葉を聞くうちに、私の元を覆っていたが、急速にれていくのをじた。
で抱え込んでいた恐怖や孤は、確かな「法」という防壁によって遮断されていく。な沼の喧嘩をする必はない。
徹な続きの積みねこそが、私とを守る最の武器になるのだ。