"「ママって呼んじゃだめ」そう泣いた五歳の娘" 第4話
「夫が育児に協力になってくれて助かる」と、本気で謝すらしていたのだ。
その裏で、健吾は何をしていたのか。
泣き止んだを膝のに乗せ、私は背を優しくさすりながら、できる限り穏やかな調で尋ねた。
「、話したくないことは無理に言わなくていいよ。でも、もしママに教えてくれるなら……パパと莉奈お姉ちゃんと、どこにったの?」
は私のの裾をぎゅっと握りしめ、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……おっきな滑り台がある公園にったの。それでね、そのあと、パンケーキのおにった」
「そうだったんだ」
「ね、いちごのパンケーキがすごくかったから、ママにお写真撮って送りたいって言ったの。スマホでパシャってしてって、パパにお願いしたの」
「うん」
「そしたらパパが、ダメだよって。今おかけしたことは、パパと莉奈お姉ちゃんとちゃんの『特別なお約束』だから、ママにはナイショにしようねって言ったの。ママはお仕事で疲れちゃうから、お話ししたらでしょって」
健吾の顔が脳裏に浮かび、激しい吐き気がこみげた。
妻への気遣いという美名にすり替え、歳の子どもに止めをする。子どもの無垢なを逆に取って、自分の倫の片棒を担がせていたのだ。
「ちゃん、そのときどうったの?」
「……寂しかった。
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ママにもパンケーキ見せたかったもん。でも、パパがると怖いから……」
はさく息を吸い込み、何かをいしたように、リビングの隅に置いてある自分の幼稚園のリュックを指配した。
「あのね……ママ。、隠してたものがあるの」
「隠してたもの?」
は私の膝からりると、とてとてとリュックの元へ歩いていった。ファスナーをけ、番奥の底の方から、さなビニール袋を取りした。
そのに入っていたのは、のひらに収まるほどの、淡いピンクのウサギのマスコットだった。
触りの良い毛並みに、さなリボンがついている。
「これね、莉奈お姉ちゃんが買ってくれたの」
はそれを両で差ししながら、罪悪に押しつぶされそうな顔をした。
「パパがね、おに持って帰っちゃダメだって言ったの。ママに見つかったらママが泣いちゃうから、幼稚園のカバンの奥に隠しておきなさいって。だから、ずっとリュックのに入れてたの……ママ、ごめんなさい」
はまた謝った。
今だけで、この子は何度謝っただろうか。
私は震えるで、そのウサギのマスコットを受け取った。
っぽい化繊の触りが、指先にたく伝わってくる。
歳の子どもが、母親に見つかることを恐れながら、毎このマスコットをリュックの底に隠して登園していたのだ。
父親から「ママを泣かせるな」と脅されながら。
自分の欲望のために、娘のを質に取っていた夫。
そして、妻公認だと信じ込まされていたとはいえ、歳の子どもに秘密をいる関係を受け入れていた女。
「」
私はマスコットをテーブルのに置き、の両肩を包み込むように抱き寄せた。
「は、何も悪くない。このウサギさんも、が悪いことをしたわけじゃないの。全部、が勝にやったこと。だからもう、絶対に『ごめんなさい』って言わないで」
は私の肩に顔を埋め、静かに頷いた。
そのさな温もりをじながら、私ので、何かが音をてて徹に固まっていくのをじた。
しみや混乱は、もう消えっていた。
残ったのは、母親としてこの子をこれ以あんな男の嘘に晒してはならないという、研ぎ澄まされた決だけだった。
*
午過ぎ、疲弊しきったは、リビングのソファでようやくい眠りに落ちた。
微かに寝息をてる娘の額にタオルケットを掛け、私はダイニングテーブルに戻った。目のには、莉奈が買い与えたピンクのウサギと、スマートフォン。
私はスマホをに取り、画面のロックを解除した。
園の連絡アプリをくと、午に配信された写真がまだ残っていた。
教のさな子に座る莉奈の膝ので、張った笑顔を浮かべる。
その傍らで、父親面をして満げにつ健吾。
この写真を撮った田辺先は、何もらずに常の記録として撮しただけだ。