"「ママって呼んじゃだめ」そう泣いた五歳の娘" 第2話
妻である私を嘘で排除し、歳の娘に「ママと呼ぶな」と止めまでして。
「親戚、ですか」
私が呟くと、健吾はあからさまに線を泳がせ、舌打ち混じりにく言った。
「……美咲、ここではやめろ。で話す」
「ええ、もちろん話しましょう。でもそのに、をこのにいさせるわけにはいきません」
私は田辺先に向き直り、をげた。
「先、庭の事で申し訳ありません。本はを退させていただけますでしょうか」
田辺先は事態の刻さを察したように、く頷いた。
「わかりました。ちゃんのお荷物をまとめてきますね。お母様、職員のでお待ちいただけますか」
先がのを優しく引いて教の奥へ連れてこうとしたとき、は何度も振り返り、そうに私を見た。私は娘に精杯の穏やかな笑みを返し、「丈夫だからね」とパクで伝えた。
がの園児たちの輪に戻ったのを見届けてから、私は廊の隅へと歩をめた。健吾とという女が、居悪そうに私のに続く。
廊の窓からは、の柔らかい陽射しが差し込んでいた。そのかさが、今の私には耐えがたいほど々しくえた。
「健吾、説して」
私はを振り返り、言った。
「なぜ事が止だと嘘をついたの。そして、そのは誰?」
健吾は腕を組んだまま、防な態度を崩さなかった。
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「……嘘って言うなよ。仕事で疲れてるおに無理させないように、気を利かせただけだろ。それに莉奈は……さんは会社の取引先のだ。いつも世話になってるから、たまたま休みがって、の様子を見たいって言うから連れてきただけじゃないか」
「取引先のが、どうして『親戚』として園の名簿に登録されるの? どうして歳の子どもに『ママと呼んだらお姉さんが泣く』なんて言わせなきゃいけないの?」
私の追及に、健吾は言葉を詰まらせた。
そのとき、健吾の背に控えていた莉奈が、耐えかねたようにをいた。
「あの……奥様」
彼女の声は震えていた。見すような敵はなく、むしろ激しい混乱と揺がその瞳に浮かんでいた。
「健吾さんから……もうとっくに夫婦関係は破綻していて、庭内別居の状態で、婚のもできていると伺っていました。ちゃんとも、いずれ会わせるつもりだと……奥様も、しずつ私とちゃんが顔をわせることを承諾していると、そう聞いていたんです」
「……は?」
私はあまりの言葉に、乾いた笑いが漏れそうになった。
「私が承諾? 度だってそんな話、聞いたこともありませんけど」
莉奈は息を呑み、血の気を失った顔で健吾を見げた。
「健吾さん……? 言ってたことと違いますよね? 奥さんも納得してるから、今ここでちゃんと仲良くなってほしいって……そう言いましたよね?」
健吾は額に脂汗を浮かべ、苛ちを隠そうともせずに声を荒らげた。
「おい、莉奈、今ここで余計なことを言うな! 美咲、おもだ。ここは幼稚園だぞ。の目があるんだから、しは弁えろよ!」
自分からの目を欺いてを連れ込んでおきながら、都が悪くなると世体を持ちす。その浅ましさに、りを通り越して背筋が寒くなった。
夫はただ倫をしていただけではなかった。
には「妻も公認の婚提」と嘘をつき、妻には「事は止」と嘘をつき、その歪な嘘の帳尻をわせるために、歳の娘に母親のを否定させようとしたのだ。
「今のことは、絶対にこのままにはしないから」
私は健吾の目をまっすぐに見据えて言い放った。
「には、これ以あなたたちをづけさせない」
「おい、美咲!」
呼び止める健吾の声を背で遮り、私は職員へと向かった。
田辺先がのリュックと履き袋を持って待っていてくれた。はすでに園に着替え、そうにを向いている。
「、お待たせ。おに帰ろうね」
私が靴を履かせようと屈むと、は私の首に細い両腕をきゅっと巻きつけてきた。さな体が、微かに震えていた。
「お母様」
田辺先が、周囲に聞こえないようない声で私に打ちした。
「園にも今回の経緯は報告しておきます。
今の送迎やお引き渡しについて、ご希望があればすぐにご相談くださいね」