"捨てられた整備士、沈黙の咆哮" 第25話
笹本はその言葉を、胸ので何度も、何度も噛み締めていた。
分からないから、全部見る――。
つまり彼女は、自分自の技術や経験に「分かったつもり」になることができないのだ。
この仕事をしてきた笹本には、それがどれほど恐ろしく、どれほど過酷なことかが痛いほど理解できた。備士は、経験を積めば積むほど作業がくなる。だがその「さ」の正体は、「見なくても分かる」というい込みと、無識のうちに混ざり込んでいく「分丈夫だろう」というにならないのだから。
現に、笹本自、あの端田さんの軽自のフレームの亀裂を、も見過ごし続けてきたのだ。
「……の会社にいた頃、度だけ」
田が、ぽつりと記憶の糸を繰るように呟いた。
「私が見落としたわけではないが、検を通した数に、速でブレーキトラブルによる事故を起こしました。私の担当箇所ではありませんでしたし、会社からも誰からも責められませんでした」
田の両が、作業着の太ももので固く握りしめられた。
「でも……あの、私はの片隅でそのが庫していくのを見送りながら、ので『丈夫だろう』とってしまったんです。自分の目で見ていない所を……分、丈夫だろうと、見過ごしてしまった。……それ以来、私は『分』という言葉が、怖くて使えなくなってしまったんです」
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榊原はく、く息を吐きした。
「……なるほど」
老はそう呟くと、シャッターの脇に凍りついたままち尽くしていた川の方へと、ゆっくりと向き直った。
「……それを『領が悪い』と切り捨てる会社なら」
榊原の声は、を過ぎた老のものとはえないほど、く、威厳に満ちて張り詰めていた。
「その会社には……を、そして械を見る目が、最初からなかったのでしょうな」
川の青ざめた顔が、ピクリと引き攣った。
「……お言葉ですが」川は歩にようとした。「うちは、に何万台という両を預かる巨組織です! 台のにもかけていたら、のお客様の作業が回りません! これは経営の理性の問題です! 素の方にしされる筋いは――」
「川さん」
笹本の声が、徹にその言葉を遮った。
自分でも驚くほど、静かで、落ち着き払った声だった。昼に喉元までかかり、呑み込んだ言葉たち。それを置くべき、正真正銘の瞬が今、訪れていた。
「昼……あんたに言わなかったことがある。今から教えてやるよ」
川がギロリと笹本を睨みつけた。
「この田がうちに来て、最初に見つけたのは、ヶ点検で預かった軽自のフレームの亀裂だ。サスペンションの台座の溶接に、センチのクラックが入っていた。検の検査ラインでも、おさんのところの標準マニュアルでも、誰も見ない所だ。
俺はこのやってきて、そこを見ていなかった」
笹本は歩、川へといを詰めた。
「台目は、運送の軽トラだ。俺が点系を直して『異常なし』とハンコを押しただ。だがこの田は、を利かせてガソリンの匂いを嗅ぎつけ、ゴムホースの内側の亀裂を見つけした。あと数っていりゃ、速のでだるまになっていただ」
川の喉が、引き攣るようにいた。
「そして……代目が、たった今、おさんの目ので目を覚ましたあのだ」
笹本は親指で、静かにアイドリングの余韻を残す暁を示した。
「名だたる名ファクトリーがかけてエンジンをバラし、装をし、それでも『原因』とおげで返しただ。田は、体がミリねじれていることを見抜き、歪みにわせた部品を自ら削りして、命を吹き込んだ。……エンジンは、最初から壊れてなんかいなかったんだよ。壊れてもいない所を、おさんたちが寄ってたかって、弄くり回していただけだ」
「そ……それは結果論でしょう!」川の声が、初めて揺でずった。「もかければ、何かしらの粗がるのは当たりだ! うちはで切りげるからこそ、価格で何万ものお客様を――」
「そので、端田さんののフレームの亀裂は見つかったか?」
笹本は鋭く切り込んだ。
「見つからんだろうな。