"捨てられた整備士、沈黙の咆哮" 第19話
それは、どこか甘く、それでいて舌の奥くにピリリと苦く残る、械たちにとっては懐かしい血の匂いだった。
旋盤の送りハンドルを握る笹本ののひらには、鉄が削れる瞬の微細な振が、骨を通じて絶えなく伝わり続けていた。
初の夕方、つ目の試作ブッシュが完成した。
田はそれをノギスで測り、暁のエンジンブロックへと仮組みし、マイクロメーターのスピンドルを何度も当て直した。そして、無言のまま静かに首を横に振った。
目の夕方も、首を横に振った。
目の夕方、つ目の試作品を組み込んだも、田の判定は変わらなかった。
「……あと、コンマ〇ミリ、角度がちすぎています」
削り直しの回数をねるごとに、笹本の数は目に見えて減っていった。肉体な疲労と、迫り来る廃業のタイムリミットが、鉛のようにく肩にのしかかっていた。
そして、目の夜だった。
は作業のかりを消し、事務所の油ストーブの周りに丸子を並べて、くのコンビニで買ってきたたい幕の内弁当を広げていた。
子レンジのないで、え切った米は舌のでボソボソと崩れ、らしいなど何ひとつじられなかった。ただ、インスタントの噌汁の尖った塩分だけが、やけに々しく疲弊した喉の奥を刺した。
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笹本は割り箸を止め、ストーブのやかんを見つめている田のへと線を落とした。
く細かったはずの指先は、油煙と切削油で黒ずみ、爪のには落ちないスラッジがく入り込んでいた。そして、の差し指の付け根には、旋盤から散した鋭利な切で切ったばかりの、赤くにじむ本の傷がっていた。
「……お、本当に領が悪いな」
笹本がぽつりと言った。
田の箸が、ピタリと空で止まった。
「普通のならな、こんな割にわない仕事、が持ち込まれた最初の分で断るんだよ。『うちの設備じゃがません、を当たってください』ってな。そう言やあ、誰も損しない。客も諦めがつく。俺だって、今までの、ずっとそうやって面倒な仕事から逃げてきた」
ので、夜が吹き抜け、錆びた板をカタカタと揺らした。
田はすぐには何も答えなかった。元の弁当箱のプラスチックの蓋を静かに閉じ、それを両でしっかりと押さえ込んだまま、机の目をじっと見つめていた。
「……の会社で」
ようやく絞りされた田の声は、夜のようにかすれていた。
「決められた標準ので作業を終わらせることだけが、プロの仕事だと教わりました。決められた通りにをからへ流せないなら、どれほど丁寧に見ようと、それは技術ではなく単なる甘えだと……そう教え込まれました」
「……その教えは、違っちゃいねえよ」笹本は言った。「組織でを回す以、それが正解だ」
「はい。違っていないといます」
田はゆっくりと顔をげた。
その瞳の奥には、涙の欠片も浮かんでいなかった。ただ、燃え尽きることのない、青く透な炎のようない志が宿っていた。
「でも……私は、どうしても途でをすことができないんです。……まだ何かがおかしいと指先がじているのに、だからと蓋をして、丈夫だろうと自分に嘘をついてを送りすくらいなら……直せる能性があるのに途で諦めるくらいなら、使えないと罵倒されてクビになる方が、ずっとマシです」
笹本は言葉を失った。
返す言葉を探そうとしたが、胸の奥からいものが込みげてきて、喉が塞がってしまった。
この、自分は体何を秤にかけていたのか。
あと数で消えてなくなるの面子や、帳簿のの数万円の数字。そんな取るにらないちっぽけな保のために、この目のの職が命を削って向きっている真実から、目を逸らそうとしていた自分自が、たまらなく恥ずかしくえた。
笹本は乱暴にパイプ子からちがると、作業着の両袖を力任せにまくりげた。
「……で、絶対に仕げるぞ」
田が驚いたように丸い目を見張った。
「で削ってで測ってるから取るんだ。