"捨てられた整備士、沈黙の咆哮" 第15話
掘り起こされることになるのが、単なる台の旧の歪みなどではなく、半を械に捧げてきたの男の、魂の傷跡そのものであることなどとは。
翌朝、榊原善夫は、約束の刻よりも分くのに現れた。
いつもの仕ての良いツイードジャケットを脱いで事務所の子の背にかけると、ワイシャツの袖のボタンをし、自らので肘のまで丁寧にまくりげた。その職らしい無駄のないのこなしに、笹本は昨から胸の奥に抱えていた圧を改めていらされていた。
「……まず、見ていただきたい所があります」
田はそう静かに告げると、暁をリフトの央へと導き、操作レバーを引いて体を持ちげた。
油圧ポンプのい唸りとともに、濃紺の体がの男のくへと持ちがっていく。リフトが全爪の噛みうカチリという音をてて止すると、田は慣れた取りで輪のへと潜り込み、にしたサンドペーパーの削りカスを息で吹きばしながら、本の指をく突きげた。
「ここです」
笹本と榊原も、をかがめてリフトのへとを踏み入れた。
田の細い差し指が指し示していたのは、フロアパンの裏側、フロントのフレームレールがセンタートンネルへと流する、もっとも固であるはずの接部だった。
広告
回り全体には分いアンダーコートが吹き付けられており、見しただけでは周囲の鉄板と何ら変わりはないように見えた。しかし、田がサンドペーパーでその表面を数回、シャッ、シャッとリズミカルに擦ると、黒い塗膜のから、なの層がわになった。
「……パテです」
削り落とされた細かい末が、乾燥した膏に似た独特のっぽさを伴って、見げるの先へとハラハラと落ちてきた。
田はし位置をずらし、センチほど方の鉄板を再びペーパーで擦った。そこからも、全く同じ鈍いのパテの層が現れた。
「みが、所によって全く異なっています。のから、フロアの央を横切って、のろのフレームマウントへと向かって、斜めのラインでパテが盛られています」
さらに田は、軍をした差し指の先で、鋼板の継ぎ目に打たれたスポット溶接の痕跡を丹に辿っていった。
メーカーの製造ラインのロボットが打った溶接痕は、数センチ隔で均に、美しい円を描いて並んでいる。しかし、その然とした列がフロアの央付で唐突に途切れ、そこから先は、作業のアセチレン溶接によって肉盛りされ、歪に隔の詰まった打点がなりっていた。
素の曜の仕事ではない。
腕のある昔気質の板職が、持てる技術のすべてを注ぎ込んで形をえた痕跡だった。
しかし――それは紛れもなく、自メーカーがから送りしたの、本来の姿では決してなかった。
「……このは、かつて骨格が激しくひしゃげるほどの事故を起こしています」
田の静な声が、回りの空に反響した。
「そして、フレーム修正で骨格を完全に引き戻すことなく、見の形だけを板パテでえ、無理やりれる状態に戻されています」
笹本は息を殺し、隣につ榊原の横顔を窺った。
老は背を丸め、田が指し示したそののパテの層から、瞬きひとつせずに線を張り付かせていた。その瞳の奥で、何もの歳の記憶が、激流のように渦巻いているのが見て取れた。
やがて、榊原は静かに踵を返し、リフトのからて事務所へと戻っていった。
パイプ子にく腰をろした老のに、笹本は湯気のつ番茶をコップに注いで差しした。榊原はそのコップを両で包み込むようにして握りしめた。その節くれだった太い指の関節が、血の気を失ってく張っていた。
「……です」
い沈黙ののち、榊原のからこぼれ落ちた最初の言葉は、それだった。
「の、のる寒い晩でした。……妻と、本当に些細なことで論になりましてね」
笹本と田は、事務所のにったまま、無言で老の言葉にを傾けた。