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"捨てられた整備士、沈黙の咆哮" 第4話

そして、作業着のポケットに両を突っ込み、線を窓のの濡れそぼる作業へと向けたまま言った。

「……週だ」

田が弾かれたように顔をげた。

「週だけ、使ってやる。料はそのの終わりに払いです。それ以のことは、何があっても約束できん。……それでいいなら、から来い」

田はちがり、今度は先ほどよりもさらにく、腰を直角に折ってをげた。

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

その拍子に、彼女の濡れた髪の毛先から透な雫が滴、乾きかけたコンクリートのに落ちて、さな丸い染みを作った。

その染みをぼんやりと見つめながら、笹本は内で、自分はとんでもなく愚かな真似をしてしまったとを抱えていた。来には械をすべて処分し、鍵を返却すると決めてある潰れかけのに、今さらを増やしたところで、差し押さえの運命が覆るわけでもない。

ただ、あの入れされ尽くした飴の具箱を、このたいのに追い返すことだけが、職としての自分の矜持にかけて、どうしてもできなかったのだ。

翌朝、笹本がい取りでの敷へと向かうと、田美紀は始業刻の分もから、錆びたの鉄扉のに直して待っていた。

昨夜のは夜半のうちにがり、朝の空気はがり特のたい湿気と、濡れたの匂いを濃密に孕んでいた。

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笹本が無言で鍵を差し込み、甲い属音を響かせながらガラガラとシャッターを押しげると、のに溜まっていた古い鉱物油とえた鉄の匂いが、の湿った空気を押し返すように吐きされてきた。

その暗い部の向こうに、田はすでに姿勢を正してっていた。

につけている作業着は昨と同じものだったが、夜のうちに洗って乾かしたのだろう、汚れは綺麗に落ちており、の青が段とるく見えた。元には、あの使い込まれた鉄の具箱がしっかりと置かれている。

「おはようございます」

田は笹本の姿を認めるなり、直の姿勢から々と腰を折って挨拶をした。笹本は気恥ずかしさを紛らわすように「おう」とく喉を鳴らし、返事の代わりに顎の先での奥を示した。

「……入んな。着替えは事務所の隅のロッカーを使っていい」

笹本が彼女に最初に任せたのは、所で農業を営んでいる常連の端田さんが昨夕預けていった、軽自のヶ定期点検だった。

式こそ以のものだが、畑と自宅を往復する程度にしか使われておらず、距はそれほど伸びていない。エンジンオイルを交換し、回りのガタつきを点検し、ブレーキの引きずりがないかを確認すれば、夕方の引き取りまでには何の問題もなく終わる、町にとっては息抜きのような、極めて常な作業のはずだった。

笹本は事務所の壁のフックから点検記録簿を剥ぎ取り、田へと渡した。

「端田さんのだ。夕方のには取りに来ることになってる。記録簿の項目に沿って、通り見ておいてくれ」

田は記録簿を両で受け取り、丁寧に会釈をすると、稼働している側のリフトのに鎮座するの軽自のにった。

しかし、そこから彼女の解なが始まった。

田はすぐにボンネットをけようとはしなかった。まず、の周りをまるで儀式でも執りうかのように、定の歩調でゆっくりと周した。のタイヤのトレッド面に顔をづけ、溝のさを指先でなぞる。次に面に膝をつき、まだ完全に乾ききっていないアスファルトの濡れ具と、フェンダーの内側のわずかなの付着具をじっと覗き込んだ。

それからおもむろに運転席のドアをけて乗り込み、キーを回してエンジンを始させた。

セルモーターが回り、軽なアイドリング音が静かな内に響き渡る。だが、彼女はアクセルを踏み込むでもなく、装品のスイッチを操作するでもなく、ただ運転席にく腰掛けたまま、両目を閉じてじっとを澄ませていた。

隣のかないリフトの脇で、別ののブレーキドラムの研磨作業をめながら、笹本はその異様な景を横目で盗み見ていた。

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