"捨てられた整備士、沈黙の咆哮" 第2話
そこにかれていた職歴の文字を目にした瞬、笹本のがぴたりと止まった。
『原オートサービス』――自業界にを置く者であれば、この方でその名をらない者はいない。国内屈指の自メーカー系列の直営ディーラーであり、県内だけでも以の広な最拠点を展している巨企業だった。
履歴の記述を追うと、彼女はそこに卒から丸、備部の第線で勤務していた。資格欄には、国級自備士の文字が然とした跡で並んでいる。
笹本が父から受け継ぎ、今や代の波に取り残されて息絶えようとしているこの末の町とは、比べることすら馬鹿馬鹿しくなるほど、何もかもがった眩しい世界にいたはずのだった。
笹本は面からゆっくりと線をげ、油煙でく曇った窓ガラスの向こうへ目をやった。
煙に霞む作業が広がっている。先代である父が数に自らので基礎を打ち、苦労して建て増ししてきた基の油圧リフトのうち、向かって側の基は、昨のに油圧シリンダーが抜けてからかなくなっていた。修理部品を取り寄せる数万円のを用てることができず、黄いペンキの剥げた鉄骨の腕をだらしなくげたまま放置してある。
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現辛うじて稼働している側のリフトのに収まっているのは、所の馴染み客から検備で預かった、式の古い軽自がたった台きりだった。
「……を見ただろう。うちがどういうか、目見りゃ分かるはずだ」
笹本は履歴を作業台の類ののに放りすように置き、顎の先で暗い作業の空を無造作に指し示した。
「職なんざいやしない。見ての通り、俺だ。残っている客だって、両の指がありゃ全員数え切れちまうくらいしか残っちゃいないんだよ」
田は笹本の言葉を静かに聞きながら、ゆっくりと事務所のを見渡した。壁に貼られた古いカレンダー、埃をかぶった各種のパーツカタログ、そして部の隅の神棚のに飾られた、先代の写真。そのすべてを静かに見つめた、彼女の線は再び笹本の顔へと戻ってきた。
「それにだ」笹本は煙の箱をもてあそびながら、皮肉な調子で言葉を継いだ。「来の末には完全にシャッターをろして畳むことが決まってるに来て、体何をするつもりなんだ? うちにはおに払う退職どころか、来の料の保証だってありゃしないんだぞ」
田は眉つかさず、静かに、しかし芯の通った声で答えた。
「お料は、くても構いません。……ここで、働かせていただけないでしょうか」
そのあまりにも愚直な言葉に、笹本はわず乾いた笑いを漏らしてしまった。半をこの臭い現できてきて、「くても構わないから雇ってくれ」という台が、これほど現実れして滑稽に聞こえたことはなかった。
笹本は机のに両肘をつき、探るような線を女の顔に突き刺した。
「の会社は、どうして辞めたんだ」
そう尋ねた瞬、田の線がすっとへと落ちた。
作業着の両の袖を握りしめる彼女の指先に、ぎゅっとい力が込められるのが見えた。爪の先がくなるほどに布を握りしめている。油ストーブのやかんがてる細い蒸気の音と、トタン根を叩く音だけが、息苦しいほどの静寂を伴って事務所を満たしていった。
沈黙ののち、田は絞りすような、ひどくい声で言った。
「……領が悪くて、使えないと言われました」
やかんの湯気がふつふつと鳴る音が、そのい言葉のあとに、やけに々しくきく響いた。
笹本は何と言葉を返すべきか分からず、ただを真文字に結んだ。同のが湧いたわけでも、慰めの言葉を探したわけでもない。ただ、この業界の底辺で油にまみれてきた職として、その言葉の裏にある景が、痛いほど静かに腑に落ちてしまったからだ。
原オートサービスのような巨な組織で、女ので備士としても現にち続け、その果てに「使えない」
という烙印を押されて放りされるの理由は、業界を見渡せば体相が決まっていた。