"百五十七名の命、ある農婦の通信" 第3話
角度から見て、残されたはあと分もない。 そして、この勝平野の周辺において、あの巨な鉄の塊が無力で滑空して届く範囲に、着陸能な空港はしない。 放置すれば、体はどこかの防林か牧に速数百キロで激突し、爆発炎して全員がする。
真理の瞳の奥で、眠っていた何かが、青いを散らして覚した。 彼女は切の躊躇なく踵を返し、納のへと駆け込んだ。
ぼこりがう暗い納の奥、積みげられた農薬や肥料の袋の脇に、埃を被った製の棚があった。その棚の最段には、退官に元に残すことを特別に許された、古い自隊規格の航空無線が鎮座していた。軍用の緊急周波数をはじめ、民航空の非常周波数にも直接アクセスできる、真空管とトランジスタが混した無骨な属の箱である。 真理は靴のを払い落とすこともせず、に汚れた指先で無線の主源スイッチを力くねげた。
ジーという唸りをげてトランスが唸り、緑のバックライトが暗い納のに灯る。 ダイヤルを素く回転させ、札幌コントロールが使用している緊急周波数に周波数をわせると、真理は棚からぶらがっていたなマイクを乱暴に引き寄せ、力く送信ボタンを押し込んだ。
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「札幌コントロール、こちら佐藤。位置、帯広のキロ点の農。現、空にJAL便を目確認。彼らの現の滑空比では、周辺のいかなる空港にも届かない。私がから誘導する」
スピーカーの向こうから返ってきたのは、切迫した通信環境特の、激しいノイズと苛ちの混ざったの男の声だった。
『――こちら札幌コントロール! 民か!? 現、当該空域はなエマージェンシー事態にある! 波法に基づき、この非常周波数を直ちに放しろ! 通信の妨害をするな!』
真理の眉毛は微だにしなかった。彼女の声には取り乱した様子も、焦燥も切なかった。 しかし、その声の底には、作業着を着た農婦のものとは似ても似つかない、幾度もの修羅をくぐり抜けてきた本物の戦闘パイロットだけが宿す、鋼鉄の切っ先のような鋭利な威厳が満ちていた。
「私は元航空自隊第2航空団、戦闘パイロット。総千百以。コールサインは“アイアンハンド”。……当該が私の畑の周辺に墜落するまで、およそ残り分。私の所する農、収穫済みの麦畑が滑として使用能。盤、距ともに条件を満たしている。直ちに誘導支援の許を求める」
無線の向こうが、瞬にしてを打ったように静まり返った。 管制卓の号がピタリと止み、ただザーという気のノイズだけが納のにく響き渡る。
数秒の沈黙の、スピーカーの奥から、先ほどの若い管制官とはらかに異なる、く太い、落ち着いた初老の男の声が割り込んできた。
『……こちら、札幌コントロール主任管制官の渡辺だ。もう度、所属とコールサインを言ってくれ』
真理は即座に、切の淀みなく言い放った。
「元・第2航空団第201隊、千歳基。F-15J搭乗、佐藤1等空佐。コールサイン、“アイアンハンド”」
再び、息の詰まるような沈黙が流れた。 渡辺主任管制官が、その名がするみを即座に理解したことはだった。 真理はマイクを握りしめたまま、納のけ放たれた引き戸から空を見げ続けた。の巨体が、青空のキャンバスので確実にその輪郭をきくしている。肉でも、体が刻刻とへ引きずりろされているのが見て取れた。
『……解した、佐藤1佐。スタンバイしてくれ』
渡辺の乾いた声が無線からく返ってきた。
その頃、JAL2749便のコクピット内は、の恐怖と絶望な圧が渦巻いていた。 田と鈴副操縦士は、計器盤のに置かれた分い「両エンジン止緊急チェックリスト」の項目を、猛烈なスピードでめくりながら、指差し確認を繰り返していた。 補助力装置(APU)の起試、ウインドミルによるエンジン再点シークエンス、油圧配管の圧力保持、クロスフィードバルブの閉。
だが、そのすべてが無駄だった。