"七通の退職届と八十件の着信" 第35話
の終わり、私は事務所の壁の目つ所に、作業着姿で豪に笑う父の写真を飾った。
「お父さん。私、ちゃんとを見ることができてるかな」
写真に向かってさく呟くと、横で荷伝票を理していたホアンが、すました顔でを挟んだ。
「分、まだまだですね」
「えっ?」
振り向く私に、ホアンは真顔で続けた。
「先代社は、もっともっと厳しかったですから」
パソコン部から顔をしたフックがきく頷き、号ののアンまでが肩を揺らして吹きした。私もつられて、声をげて笑った。
初旬、京ビッグサイトでかれた械素技術の展示会に、私たちで展した。
森精のさなブースには、アンたちが削りしたミクロン単位の超精密部品と、フックたちが構築した完璧な品質トレーサビリティの測定チャートが美しく並べられた。
を止めてくれたメーカーの設計者たちに対し、アンは簡潔な本語で、フックは理然とした理論で、ホアンは丁寧なデータ解説で説に当たっていた。
昼過ぎ、喉を潤すために通へた私は、き交う波のに、見覚えのある丸まった背を見つけた。
別の展企業のブースの片隅で、首から来者カードをげて所なげにっていたのは――川正だった。
の噂で、川精は度末に完全に板をろし、川は別の請け町に雇われ職として拾われたと聞いていた。
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川は私に気づくと、気まずそうに線を彷徨わせたが、やがて力のない取りでづいてきた。
その豊かな黒髪は、わずか半余りのうちに真っに染まっていた。
「……あの、よくやってるな。扇原の担当から聞いたよ」
「はい」
川はブースの向こうで、に客へ部品を説しているアンたちを見つめた。
「……俺には、あいつらの価値が分からなかった」
「父には、分かっていました」
川は押し黙った。私は父が社で言っていた言葉を噛み締めながら、静かに告げた。
「本かベトナムかではなく、仕事にどう向きうかを見るでしたから」
川はい、の眩しい姿を見つめ続けていた。
そして私に向かってさくをげると、混みの奥へと静かに背を向けてっていった。その作業着の胸ポケットには、あの黒い帳の角はもう見当たらなかった。
その夜、自宅へ戻った私は、父の遺品である古い学ノートを初めていた。
事務所のスチール棚から持ち帰ってきた、械油で波打った表のノート。
には、作械の特性、取引先ごとの癖、そして職の所や課題が、父の温かい跡でびっしりとき込まれていた。
ベトナムののページも、から克に残されていた。
『 ホアン来。良の原因をノートに必ずき留めている。
素らしい癖だ』
『 アン配属。百個削っても寸法がコンマミリもブレない。才な指先を持っている』
『 フック配属。分い説を冊丸ごと読み切った。面い男だ』
そして、ノートの最のページには、太いサインペンで、たっただけが力くき残されていた。
『を残せば、会社は残る』
翌朝、私は澄み渡る朝の空気の、いつもよりしくのシャッターをけた。
号のでは、アンが入社員の若い職に、刃物の当て方を優しく教えていた。
パソコン部では、フックが平野くんに、しいマクロプログラムの組み方をホワイトボードを使って解説していた。
そして恒温検査では、ホアンがしくベトナムから来た青に、次元測定のプローブのかし方をから取り取り教えていた。
父がに授けた技術と魂が、今、次の世代へと確かに渡されている。
『俺なんかに返そうとするな。次のに返せばいいんだ』
父の遺した言葉通りに。
は、腕のある職を全員連れてったつもりだった。
けれど、父がかけて本当に育てていたのは、肩やプライドに胡をかいたベテランなどでは決してなかったのだ。
どこの国のかより、仕事にどう向きうかを見ろ――。
父が命懸けで遺してくれたその気き教えと、の誇りき職たち。
それこそが、私が受け継いだ、このさな町のかけがえのない最の財産だった。