"七通の退職届と八十件の着信" 第31話
誰もかなかった。の奥で、号の却ファンが回る微かな音だけが響いていた。
私は元に落ちた黒い帳を拾いげた。隅は擦り切れ、械油が染み付いている。それを差しすと、川は震えるで受け取り、そのままの段差にドサリと腰を落とした。
「……なんでだ」
川の声は、消え入りそうなほどさかった。
「なんで浩さんは……俺にそのことを言わなかったんだ……も……」
「先代社は……」
フックがポツリと言った。
「毎朝過ぎにパソコン部のドアを叩いて、『おーい、今の朝飯をくれ』と笑って入ってきました。僕が計算用を渡すと、先代は必ず数字を声にして度読みげ、『よし』と言って社へ戻っていきました。、ただの度も、僕の計算を疑うことはありませんでした」
ホアンがファイルを抱えたまま、段差に座り込む川のに膝をついた。
「先代社に言われました。『今から言うことを、いつか川に言え』と」
ホアンは静かに目を閉じた。
『ホアン、川には絶対に言うなよ。俺の字で渡す。あいつは腕がある職だ。腕があるほど、から数字を受け取るのがぬほどなんだ。おたちの数字だとったら、あいつはプライドが邪魔してでも使わん。使わなかったら部品が狂う。困るのはお客さんと、おたちだ』
ホアンはそこで度息を継ぎ、父の言葉を紡ぎ続けた。
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『だから、俺の字で渡す。いつかあいつが、この数字は体誰が測ったんだと聞いてきたら、そのは胸を張って、俺たちが測りましたと答えろ』
ホアンは目をけた。
「。あなたは今、初めて聞いてくれました。だから、答えました」
ホアンはさらに言葉をねた。
「の、に測定を拒否されたあの、私は悔しくて先代ので泣きました。その、先代社はこう言いました。『悔しいなら、数字をつも違えるな。おたちの完璧な数字で、あの男のの職を守ってやれ』と……」
川は両で顔を覆い、激しく肩を震わせた。
『腕がある職ほど、目に見えないものを信じない。言って聞く男なら、とっくに聞いてるさ』
かつて父が事務所で漏らした言葉が、私の胸を貫いた。
父は、川を見放してなどいなかったのだ。
頑ななプライドに凝り固まった腕を見放さないために、父は毎朝定規を当てて、も嘘のをき続けていたのだ。
社の机のに遺されていた、目で途切れた『本の段取り』。
急激な発作に襲われ、識がのくまさにその瞬まで、父は川に渡すための数字をき写そうとしていたのだ。最の最まで、こののたちを繋ぎ止めようとしていた。
私の両目から、い涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「先代社は……来のに、すべてを打ちけるつもりでした」
ホアンが言った。
「と私たちを社に呼んで、このファイルを全部見せる。そして、には次の世代を育てる指導役になってもらう……そう話していました」
「教える側……? 俺が……あいつらに教えるだと……?」
川が呻いた。
「はい。先代社は、の削った属面をいつも褒めていました。『あの刃物の入れ方だけは、川にしかできない神業だ。あれを次の世代に伝えてほしい』と……」
川の瞼が、固く閉ざされたまま激しく震えていた。
その、背にいた平野くんが、耐えかねたようにへみた。
「……ッ!」
平野くんの声は、涙とりで激しく震えていた。
「の初め、社で来の事の類を見て、『あいつらのに使われるくらいならていく』って言いましたよね!?」
川の体がねがった。
の初め、社から青ざめた顔でてきた川の姿が、鮮に蘇った。
「平野くん、その類には何がいてあったの!?」
私が問いただすと、平野くんは首を振った。
「僕は見てません! が酒の席で『ベトナムのが責任者で、自分は据え置きだ。あんな事は格げだ!』って鳴り散らしていただけで……!」
私は脱兎のごとく事務所へ駆け込んだ。
社のデスクの隅にある、父がに類を理していた箱の底をひっくり返した。
ホチキスで留められた、枚の用が見つかった。