"七通の退職届と八十件の着信" 第30話
刃物は個加で品交換」
ホアンが読みげる声が響いた。
川の線が、帳の記述のでピタリと静止した。その唇が、声をさずにさく震えた。
「次は……のです」
ホアンがページをきくめくった。
「号、朝番の補正。X軸方向にプラスミクロン、Y軸方向にマイナスミクロン。猛暑のため、昼休みけにさらにプラスミクロンの変位補正」
川の指先が、帳のページを探しながら激しく震え始めた。
のにいた平野くんが、たまらず駆け寄ってきて、川の背から帳とファイルを覗き込んだ。
「……お、同じだ」
平野くんが、息を呑んで呟いた。
「最は……今のです」
ホアンがファイルの最の枚をいた。父が倒れるの付だった。
「号、朝番の補正。X軸方向にプラスミクロン、Y軸方向はプラスマイナスゼロ。刃物は個加で交換」
川は、帳の最のページをいたまま、のように直した。
ホアンはファイルをくるりと反転させ、川の目のに突きした。
そこには、半にわたる毎の付とともに、につの鮮やかな朱肉の印鑑が、枚の狂いもなく並んでいた。
『ホアン』
『フック』
「この数字は……私が毎朝半に勤し、恒温検査で測定した数値です」
ホアンは言言、魂を込めて告げた。
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「測定したのは、のに号が朝番と最に削った製品です。晩かけて度の温に完全に馴染ませてから測ることで、え切った朝と温まった午で、号のフレームがどれだけ伸び縮みしたか、刃物が何ミクロン摩耗したかが正確に分かります。それを毎朝にフックさんが計算し、そのの最適な補正値を割りしていました」
フックが隣で静かに頷いた。
「先代社は、毎朝過ぎにパソコン部に来て、僕たちからその計算結果のを受け取っていました。そして社へ戻り、ご自のきで『本の段取り』という用に清して、始業に川の号のテーブルに置いていたのです」
――川の朝飯だよ。
そう言って、社で定規を当てて笑っていた父の顔が、私の脳裏に鮮烈に蘇った。
あの毎朝の数字は、父が号を見て決めていたのではなかった。
ホアンが測り、フックが計算し、父が自らの文字で清して川に届けていたのだ。
歳を過ぎた父が、半余りもの、のる凍える朝も、焼けつくようなの朝も、も欠かすことなく毎朝続けていたこと――。私が毎朝半に勤したに見ていた父の背は、が命懸けで算したデータを、文字も違えないように定規を当ててき写していた背だったのだ。
「……嘘だ」
川の喉から、掠れた鳴が漏れた。
「う、嘘だ……! あれは浩さんの字だった! 毎朝、浩さんが俺のためにいてくれた勘の数字だったんだ!」
「はい。文字をいたのは、先代社です」
ホアンはしげに頷いた。
「でも、数字をしたのは私たちです。の、号でな良がました。原因は朝の械のえと、刃物の摩耗でした。私が毎朝測定して補正することを先代に提案した、は『パソコン部の数字なんぞらん、毎朝自分が勘で決める』と鳴って拒絶しました」
川の肩が、ビクッとねがった。
「の帳にいてある『朝はプラス補正』というのは、帳の秘密でもなんでもありません。森精の号という械固の、膨張の癖です」
フックが鏡を直し、淡々と引導を渡した。
「だから、毎そのの気温と加数に応じて測り直さなければ、所のの古械で使えるはずがないのです。扇原製作所さんの試作が決まらないのは、古械が悪いからではありません。毎朝半に勤してミクロン単位で測定するが、あなたのしいにもいないからです」
川は何かを言い返そうとを激しくかしたが、声にはならなかった。
ろで平野くんが、両でを覆って涙をボロボロとこぼしていた。
ポロリと、川のからあの黒い帳が滑り落ちた。
カサリと乾いた音をててコンクリートの面に落ち、いたまま止まった帳には、分の朝の数字が、川自の跡で誇らしげに並んでいた。