"七通の退職届と八十件の着信" 第23話
川は忌々しそうに私を睨みつけた。
「治具を取りに来たんだよ。号の治具だ。あれがないと、うちのしい現の段取りがまんのでな」
「その件でしたら、過確にお断りしたはずです。治具は会社の資産です」
川は骨に顔を歪め、吐き捨てるように言った。
「素の娘がガタガタ抜かすなと言ってんだ! 親父がんだ途端に社ごっこか? 帳簿の数字をいくら並べてたところで、職のが自分のものになるわけじゃねえんだぞ!」
その罵声を聞きつけ、のからアン、フック、ホアンのがりで駆けてきた。私の背にちはだかるの姿を見るなり、川はで嘲笑った。
「なんだ、揃ってお迎えかよ」
川はわざとらしく野課の方へ向き直った。
「野さん、今はこいつらの監査に来られたんでしょうが、悪いこたぁ言いません。無駄でしたね。こいつらはうちに来た、ただの掃除係だったんですよ。を掃いて、い材料を運ぶだけ。今だって械のボタンを押してるだけのロボットです。数字をわせてるのは械であって、こいつらの腕じゃありません」
私の指先が、りで急速にたくなっていく。
「素の娘と、ベトナムの見習い。そんなお粗末な陣容で産栄さんの部品が削れるなら、世のに職なんて商売はりませんよ」
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見かねた岩佐さんが、川の作業着の裾をさく引いた。
「……、もうやめましょう。取引先のお客さんのですよ」
「客のだから言ってんだよッ!」
川は岩佐さんのを乱暴に振り払うと、アンの目のに仁王ちになり、胸ポケットから引き抜いたあの黒い帳で、アンの作業着の胸元をバンバンと突いた。
「級技能士に受かったんだってな? だがな、試験の決まったお題を削るのと、客の本番部品を削るのとは次元が違うんだよ。切れ枚で、職の面してんじゃねえぞ!」
アンは唇を血が滲むほど固く結び、微だにせず川の目を睨み返していた。その両拳は、くなるほどく握りしめられていた。
フックが歩にようとしたが、ホアンがスッと腕を伸ばしてそれを押し止めた。
「おもだ」
川は今度はフックを指差した。
「の効いた部でパソコンの画面いじってりゃ、仕事した気になれるんだから楽な分だよな。削りの音つ聞き分けられんくせによ。……それからホアン、おもだ。測るだけなら学でもできるんだよ。いくら測ったところで、部品の品質ががるわけじゃねえんだ!」
は、言も言い返さなかった。
ここでに言い返せば、野課ので見苦しい騒ぎになってしまう。が会社の信用を守るために、必に悔しさをみ込んで沈黙していることが、私にはたまらなくおしく、そして悔しかった。
「川さん」
私は静かに、しかしの空気を震わせるほどのい声で言った。
「ここは、もうあなたのではありません。今すぐお引き取りください」
「言われなくても帰るよ!」
川は肩をらせ、の奥の号を顎で指した。
「どうせ来には、あの械も差し押さえをらって売りにるんだ。そうなったら、俺が値で引き取ってやるよ。浩さんの械が見らぬブローカーにバラバラに売られるよりは、俺が使ってやった方が供養になるだろうからな」
その瞬、昨の亜マシナリーの菅からの審な話が、完全に本の線で繋がった。
「……売りません」
私は川を真っ向から睨み据えた。
「父の遺した械は、台たりとも売りません」
「ふん、がりもそこまでけば派なもんだな」
川がを鳴らした、ずっと沈黙を保っていた野課が、静かに歩みた。
「川さん。つだけ、質問させていただいてもよろしいですか?」
「あ、何でしょう野さん!」
川は瞬に揉みをして卑屈な笑顔を作った。
「川さんのしいには、次元測定がないとお伺いしました。完成した部品の幾何公差やピッチの測定は、体どのように担保されるおつもりなのですか?」
「ああ、それですか!」
川は顎を突きし、自分の目を指差して豪語した。