"七通の退職届と八十件の着信" 第19話
「はい。々承しております」
私が答えると、野課は帳をいた。
「いうちに、の実監査に入らせていただきます。刃物の切削条件、段取りの順、測定器の正記録、そして今回のロットの先試作品の測定データを、この目で直接確認させてください」
「、の曜の午でしたら、いつでもでお待ちしております」
私の即答に、野課は帳にペンをらせた。
「分かりました。のに伺います」
そして、話は最もい納期の問題へと移った。
「それで森さん……の個の納期は、本当ににうのですか?」
槻部が私の目をまっすぐに見据えた。
夜の事務所で、額を突きわせて程表を睨んでいたの横顔が脳裏に浮かんだ。そして同に、の父がかつて無理な納期をしてきた取引先を毅然と断ったの言葉が、鮮やかに蘇った。
『朋子、できない納期を請けいして「できます」って言うのは、職でも商でもねえ。にわせるために規格の傷物を納める方が、よっぽど客に対する裏切りなんだよ』
私は膝ので両をく握りしめ、顎を引いて顔をげた。
「槻部、正直に申しげます。当初お約束していたの納期では、物理ににいません」
槻部の眉が、ピクリといた。
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「……ほう」
「ですが、あと『』の猶予をいただけないでしょうか。の曜までおをいただければ、品質は私どもの命に代えて保証いたします。程を号に集約し、全数個を次元測定で厳密に測定し、完全な検査成績を添えて納品いたします」
応接のが、を打ったように静まり返った。
沈黙を破ったのは、野課だった。
「部。私は……できもしない納期を請けいされるより、このように技術根拠を持って正直に申告していただける方が、品質保証の責任者としてはるかに信頼できます」
槻部はしばらく腕を組み、井を見げて案していたが、やがてふっと息を吐き、柔らかな笑みを浮かべた。
「実はね、森さん。昨来た川さんは『どころか、の曜にでも納めてみせる』と豪語していたんですよ」
「……えっ」
「そんな能な程をにされて、かえって私たちはい信を抱いたのです。分かりました。納期を延ばし、の曜納品に変更しましょう。その代わり、の野の実監査は、極めて厳格に見させてもらいますよ」
「ありがとうございます……! より謝申しげます!」
私はく、くをげた。
帰りの速を運転しながら、私は何度もハンドルをぎゅっと握り直した。
父の会社を継ぎ、自分のと自分の言葉で取引先と正面から渡りった、初めての実が胸を満たしていた。
途のパーキングエリアにをめ、すぐにへ話をかけた。受話器を取ったのはホアンだった。
「ホアンさん! 納期、に延ばしてもらえたわよ! その代わり、の午に野課が監査に来るから!」
「分かりました! 準備は、今夜から全員で始めます!」
受話器の向こうから、号が力く属を削る澄んだ音が、頼もしく響き渡っていた。
しかし、試練はそれだけでは終わらなかった。
翌の曜の朝、事務所の固定話が鳴った。
受託加に必な鋼材やアルミ材を仕入れている、丸井鋼材の伊藤社からだった。
「森さん……いやあ、本当に言いにくいんだがね」
父の葬儀で涙を流してくれた伊藤社の声が、ひどく沈んでいた。
「次の材料の納品分から、当面の、現引き換えでの支払いに切り替えてもらえんだろうか」
「……えっ? 現ですか?」
町の取引は、末締め翌末払いの売掛・買掛が常識だ。仕入れのたびに即現払いを求されるのは、倒産寸の危険な企業に対する措置である。
「伊藤社、体どうして急に……」
「いやね……うちの営業の若いのが、同業のみ会でに挟んできたんだよ。『森精は腕利きの職が全員逃げして、今の形も落ちない、もう持たないだろう』って噂が、業界内で急速に回ってるんだ」
「誰が……誰がそんなデタラメを言っているんですか!?」