"七通の退職届と八十件の着信" 第17話
私はまず、最取引先である産栄計測へ話を入れたが、購買部の槻部は来客とのことでだった。折り返しの伝言を頼むと、私はホワイトボードの赤いつの丸――納期延をお願いしなければならない取引先への連絡に取り掛かった。
受話器を握るに、ノートをいて話すべき点を箇条きにした。
先代が急逝したこと。現の職が部退職し、体制を再編であること。希望する延数。そして、その数さえいただければ、品質を落とさずに違いなく完品を納められる技術根拠。
信用庫代、融資のリスケジュールや謝絶の話をかけていた頃に叩き込まれた、誠実さを伝えるための交渉術だった。
を決して話をかけると、件の取引先は先代のを悼み、く納期の延を承諾してくれた。残る件の町の社も、
「森さんのところの削りなら、いくらでも待つよ。浩さんの娘さん、体に気をつけて踏ん張りなさいよ」
と温かい励ましの言葉をかけてくれた。
そのから、私は冊のしい学ノートを机のに置くことにした。
誰から話があり、何を言われ、こちらがどう回答したのか。付とを分単位で几帳面に記録するためだ。経理と信の実務でについた、防のための習慣だった。
広告
午過ぎ、デスクの黒話がけたたましく鳴った。
ディスプレイには「産栄計測」の代表番号が表示されていた。
「お話代わりました、森精の森朋子です」
「槻です。森さん、単刀直入にお聞きします」
受話器の向こうから聞こえてきた槻部の声は、いつもの温なトーンとは打って変わり、たく研ぎ澄まされていた。
「今まで御社にお願いしていた、うちの精度部品ですが――今も変わらず、継続して納品していただけますか?」
私は受話器を握り直した。
「……もちろんでございます。何か、ご懸される点がおありでしょうか」
「実は今朝番に、川さんと名乗る方が、うちの購買部に直接乗り込んでこられましてね」
私の臓がドキンとねた。
「川さんは、こうおっしゃいました。『森の熟練職を全員連れてしい会社をちげた。図面の加条件も段取りも、すべて自分ののにある。残された森精には、あの部品を削れる職はも残っていない。だから今の発注はすべて自分の会社に切り替えてくれ』と」
私は奥歯を噛みしめ、受話器に向かって腹の底から声を絞りした。
「そのような事実はいっさいございません! 産栄計測様のお仕事は、すべて従来通り弊社で継続いたします。納期の個につきましても、本朝から程通り削り始めております!」
自分でも驚くほど、迷いのない毅然とした声がた。
受話器の向こうで、槻部がフッとく息を呑む気配がした。
川は、をったまさにその翌朝、予告通り産栄計測へ乗り込み、森精の仕事を丸ごと奪い取ろうと画策していたのだ。
「……分かりました。ただ、加現の責任者が根こそぎ変わったとなれば、発注元として現の実態を確認しないわけにはいきません。詳しいお話を伺いたいので、午、うちの本社までを運んでいただけますか? 品質保証の野も同席させます」
「承いたしました。、必ず伺います」
話を切ると、私はすぐにノートをき、震えるペン先をらせた。
『 午分 産栄計測・槻部より入。川、退職翌朝に産栄購買部を単独訪問し受注奪を試みる』
ノートにき留めたインクの文字が、私の激しいりを証するようにさく震えていた。
産栄計測へ向かう夜、私は作業を終えたアン、フック、ホアンのを事務所に集めた。
「納期の産栄計測さんの個……今のの体制で、本当ににう?」
ホワイトボードので、は顔を見わせた。
を切ったのはアンだった。
「できます」
揺るぎない、い言だった。続いてフックが元のメモを指差しながら言った。
「ただし、加程の部を変更したいです。号で削っていた荒削りと仕げの程を、すべて号に集約します。