"七通の退職届と八十件の着信" 第16話
『俺がわざわざ言葉にしなくても、おたちはもう分に分かっているだろう。だがな、にちゃんと残しておかないと、はいつか事なことを忘れてしまうからな』と」
ホアンが画面を指差した。
「先代社は、このメモをフォルダの番に置いておけと言いました。『もし俺のに万がのことがあったら、番最初に朋子に見せろ』と……」
フックの声が、微かに震えていた。
画面に映しされた父のき文字を、私は息を殺して読んだ。
『アン=軸加・段取り
フック=設計・プログラム・産技術
ホアン=品質管理・精密測定』
の名と役割が記されたのに、分の余を空けて、し太くきな文字で、こう力くき殴られていた。
『とも、もう派な職だ』
私はそのから、目をすことができなくなった。
父はこのを、世が呼ぶような「技能実習」とも、川が蔑んだような「ベトナムの子」ともいていなかった。
の名を誇らしげに記し、彼らが背負っているの台骨となる仕事を記し、そして最に、最限の敬を込めて『職』と認めていたのだ。
『朋子、数字ばっかり見るなよ。会社はがかしてるんだからな』
父の声が、今度は鮮な温もりを伴って、私の胸の奥くに響き渡った。
数字の向こうにある、のを見ろ――。
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、父のから何百回と聞かされ、そのたびにたく聞き流してきた言葉の真のみが、ようやく理解できた。
父は、自分がいつ倒れてもいいように、森精が次の代へむための準備を、命を削りながら完璧にえていたのだ。誰がこのを真に支え、誰が未来をかしているのかを、父はずっと昔から見抜いていたのだ。
「……お父さん、最初から全部、分かってたんだね」
私が涙声で呟くと、隣にいたホアンが作業着の袖で目元をく拭った。アンは画面に映る父の文字を、祈るような差しで見つめ続けていた。
私はきく呼吸をし、パイプ子からちがった。
そして、のに向き直った。
「私は、作械をかすことはできません」
が私をじっと見つめた。
「属を削ることも、CAMのプログラムを組むことも、次元測定を操作することもできない。でも――仕事を取ってくることはできる。お客さんと向きい、をげ、信頼を繋ぎ止めるのは、私の仕事です」
「じゃあ、僕たちは作ります」
アンが髪を入れずに即答した。
「検査は、絶対に任せてください」
ホアンが自分の胸にを当てた。
「プログラムの準備は、もうできています」
フックがキーボードをトンと叩いた。
それ以、誰も何も言わなかった。
はそれぞれの持ちへと、に歩みっていった。
数分――のから、キィィィンという軸加号の主軸が回転する鋭く甲い音が鳴り響いた。続いて、軸マシニングセンタが滑らかにきす音がなった。
昨まで墓のようにえ切っていたに、父がきていた頃と全く同じ、命の音が戻ってきたのだ。
私は事務所のガラス窓越しに、号のにつアンの横顔を眺めていた。
回転する超エンドミルがアルミのインゴットに触れるたび、に輝く微細な切削屑が美しい螺旋を描いてい散る。アンは制御盤のデジタル数値を睨み、削られていく属の断面に鋭い線を注ぎながら、折満そうにさく頷いていた。
あの凛とした横顔こそが、父がメモに遺した『派な職』の姿そのものだった。
パソコン部では、フックがモニターに次元モデルを呼びし、目にも留まらぬ速さでコードを打ち込んでいる。恒温検査のガラスの向こうでは、ホアンが袋をはめ、測定台の定盤を丁寧にアルコールで清拭し、温度計の数値を厳格に確認していた。
とも、誰の指示を受けるでもなく、自らの志と誇りによって完璧にいていた。
先週まで川の号と勘だけでいていた町が、今、の若きプロフェッショナルのによって、それぞれの持ちから力く回り始めていた。
「私も、自分の持ちを守らなきゃ」
私は自分に気を入れるように呟き、事務所のデスクの受話器へとを伸ばした。