"七通の退職届と八十件の着信" 第15話
「社、これを見てください」
フックがマウスをクリックすると、型モニターの画面の央に、つのフォルダが表示された。
フォルダ名は――『技能継承』。
「から、先代社と僕たちで作ってきました。毎週曜の定、でデータを入力していました」
「って……お父さんと、あなたたちで?」
私が問い返すと、フックはモニターから線を逸らさずに頷いた。
「はい。川や、本の職さんたちにも毎回声をかけましたが、誰も来ませんでした」
フックの調には、誰かを責めるような刺々しさは微もなく、ただ厳然たる事実を淡々と述べていた。
「先代社は言っていました。『が辞めたり、倒れたりしても、のの仕事が絶対に止まらないようにしたい。職が辞めるたびに、そのののにある技術まで緒に消えてしまうのは、会社にとって番の損失だ』と」
フックが『技能継承』のフォルダをダブルクリックすると、画面には取引先ごとの名がついたサブフォルダがずらりと並んだ。
『産栄計測』『扇原製作所』『丸井鋼材』――森精が取引している数社の名が網羅されている。
フックが『産栄計測』のフォルダをくと、今度は部品番号のリストが規則正しく展された。フックはそのから、つのファイルを選択した。
広告
来週に個を納品しなければならない、例の最精密部品だった。
「この部品には、全部でつの詳細ファイルがあります」
フックは差し指で画面を指し示していった。
「つ目は、加条件。どの刃物で、どの回転数で、どの送り速度で削れば変位がないか。つ目は、具管理。刃物の寿命と、何個削ったら品に交換すべきかの基準。つ目は、治具の図面。寸法も材質も、クランプする位置も全部CADデータで入っています」
フックはそこで度画面をスクロールし、私を見た。
「つ目は、過の良記録。いつ、誰が、どの程で寸法をしたか、その原因と対策。つ目は――」
「測り方です」
ホアンが横から言葉を継いだ。
「次元測定でプローブを当てるポイント、測定する温の条件、測定回数、検査成績のフォーマットもすべて揃っています」
「そして最が……」
アンがぽつりと呟いた。
「械の癖です。号も、号も」
画面には、アンの言葉通り『作械特性_号』というファイルがしていた。
ファイルをくと、朝の運転に必な、気温の変化による主軸の伸び率、刃物を交換した直の微細な寸法の偏りなどが、驚くほど緻密な数値とグラフで記録されていた。
「号の癖まで、全部ここに入ってるの……?」
「はい。先代社が械の横にって、つつ細かく教えてくれました。
それを僕が数式化して入力しました」
フックはそう言って、画面を軽やかにスクロールさせた。取引先ごと、部品ごとに蓄積された同様の記録は、実に百件を超えていた。
「治具は、すぐに作り直せます」
アンが静かに、力い声で言った。
「完全な図面データがあります。材料のブロックさえに入れば、僕がで号の治具を全部削りせます」
私は息を呑み、言葉を失った。
川が「俺のものだ」と言い張って持ちそうとした特注治具も、「俺ののに全部入っている」と誇示していた加の段取りも、すべてこのパソコンのに、誰の目にもらかな形で完璧に保されていたのだ。
『職の勘を残そうとしてるから、記録してんだよ』
の父が、笑いながら言っていた言葉の真が、に打たれたように胸に突き刺さった。あの、私は父が代遅れの老のを張っているだけだとい込んでいたのだ。
「社、もうつだけ、絶対に見てほしいファイルがあります」
ホアンが言うと、フックがフォルダの最層にあった枚の画像ファイルをいた。
それは、父のきのメモ用をスキャナーで読み取った画像だった。
罫線の入った古い便箋に、見慣れた父の力い、し癖のある文字が並んでいた。
付は『』。アンが級技能検定に格したことが判した、わずか数の付だった。
「これをいた、先代社はこう言いました。