"七通の退職届と八十件の着信" 第10話
机のには、あのの朝の方が、透なクリアファイルに挟まれて置かれていた。
『本の段取り』
目の途で途切れた、震えるような数字の列。
父がこのに、毎朝何をき留め、何を伝えたかったのか。私は度もその本質を尋ねようとはしなかった。
「……私に、できるのかな」
暗い社で独り言を呟いた瞬、抑え込んでいた涙が堰を切ったように溢れし、止まらなくなった。
信用庫で培った識があるから、貸借対照表や損益計算の数字ならいくらでも読める。けれど、こので削りされている属部品のどこがどう難しく、職たちが何を誇りにしているのか、私は何つとしてらなかった。
父のいない森精を、私のような素が背負っていけるはずがない。
『朋子、数字ばっかり見るなよ』
の奥底で、懐かしい父のしわがれた声が聞こえたような気がした。
入社したばかりの頃、父に度だけのを案内されたの記憶が蘇る。
『朋子、この最の軸械はな、台で郊に派なが軒建つほどの値段がする。だがな、械がどれほど賢くなっても、械自が勝にいい部品を削ってくれるわけじゃない。削るのは、どこまでいってもなんだ』
そのの私は、「法定耐用数は何かしら」と減価償却の計算をので弾いていただけだった。
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あの、父がどんな差しでその言葉をにしていたのか、今となってはいすこともできない。
私は壁の作業着の袖に顔を埋めた。
械油と、汗と、煙の匂いが腔を突いた。父が、毎この匂いので命を削りながらきていたのだという実が、胸を刺した。
その夜、私は夜がみ始めるまで、社の子からちがることができなかった。
翌朝、の曜。
午、私は会社の顧問をお願いしている司法士の先と、社のデスクを挟んで向かいっていた。
私は以から登記簿の名目な取締役に名を連ねており、父の遺産である株式を相続する法定相続は、娘の私だけだった。先が用してくれた分い商業登記の類に実印を捺し、私はそので、法な限会社森精の代表取締役に就任した。
「登記の続きは、週以内に完させておきますよ。変でしょうが、お父様のためにも頑張りなさい」
司法士の先を見送った、事務所に戻ると、奥のパソコン部にかりが灯っていた。
ベトナムのは、いつものように始業のずっとから勤していたようだった。ホアンが何も言わず、湯気のついインスタントコーヒーを私の机にそっと置いてくれた。
午。
私はに全社員を招集し、朝礼をいた。
作業着の裾を正し、職たちのにった私は、く礼してから顔をげた。
「父の代わりが、私に務まるとはっていません。ですが、父が命懸けで遺してくれたこの会社を、私は絶対に止めません。どうか、皆さんのお力を貸してください」
私がをげると同に、
「はいッ!」
と、腹の底から響くような力い声が返ってきた。アンとフックとホアンのだった。
しかし、本職たちからは、誰として返事の声ががらなかった。
最古参の岩佐さんは、元の油染みをじっと見つめたまま、作業のツバをしきりに指でいじり回している。平野くんは隣の職と瞬だけ気まずそうに目をわせ、慌てて線を逸らした。
返事がないというだけの沈黙が、のえ切った空気ので、鉛のようにく私のにのしかかった。川は壁際にち、腕を組んだまま、のい井の梁をたい目で見げていた。
朝礼が解散しても、内の作械は台たりとも起音をげなかった。
「。今から通常通り、ラインを回していただいて構いませんよね?」
私が歩み寄って尋ねると、川は線をわせず、ぶっきらぼうに吐き捨てた。
「午からだな。そのに、社に事な話がある」
川のから「社」
と呼ばれたのは、それがまれて初めてのことだった。しかしその平坦な響きのには、敬の欠片すら含まれていなかった。