"七通の退職届と八十件の着信" 第5話
川は決して彼らを名で呼ばず、常の業務連絡ですら「おい」か「ベトナムの」と呼んで憚らなかった。
あるの昼休み、事務所でお茶を淹れていた私は、川が苛った取りで社に入っていくのを見かけた。ドアがわずかにいたままになっていたため、の会話は嫌でもに入ってきた。
「社。あいつらに、あんまり度で難しい加まで任せない方がいいんじゃないですか」
「どうしてだ」
父は広げていた図面から顔もげずに、く聞き返した。
「いや、あいつらが悪い奴らじゃないのは分かってますよ。真面目に働いてるのは認めます」
川は言葉を濁しながら、説得するように続けた。
「でもね、うちの命線になるような部品は、やっぱり本のベテラン職をに回すのが番でしょうが。言葉も文化も違うベトナムの子に、取引先の本番部品を削らせて、もしポカでもやらかしたらどう責任取るんですか」
「、か」
父がようやく図面から顔をげた。
「川、おは何を見てその『』って言葉を使ってんだ?」
「……の経験ですよ」
「だったら、経験させなきゃ、あいつらは経験者にはなれんだろうが」
父は子の背もたれにく体を預け、川の目を正面から据え置くように見据えた。
「いいか、川。どこの国のかなんてことはどうでもいいんだ。
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目のの仕事に、どれだけ誠実に向きっているかを見ろ。俺がを見るは、昔からそれしか見てない」
川は反論の言葉を失い、苦々しい表で社をにした。湯のにっていた私と目がうと、きまり悪そうに舌打ちをしてへ戻っていった。
それ以来、父はに本格な核業務を任せ始めた。
先が器用で勘の鋭いアンには、複雑な軸加のオペレーションを。
論理考力にけたフックには、加順を数値化して械に入力するCAMプログラミングを。
几帳面で観察に優れたホアンには、完成した製品の寸法精度を極限まで見極める品質検査を。
「いいか、おたち。俺の昔ながらのやり方をそのまま真似するだけじゃ駄目だぞ。現でやってみて、もっとくて綺麗な削り方を見つけたら、慮なく俺のやり方を塗り替えろ」
父はにそう言い聞かせていた。父は決して、自分の過の成功体験に固執するような頑迷な職ではなかった。自分がく信じてきた削り方であっても、がより精度がく、より具に優しい法を見つけしてくれば、次のには躊躇なくそちらを採用した。
父と川の溝は、その頃から決定なものへと広がっていった。
「昔の職はな、先輩の背を見て、技を盗んで覚えたもんですよ!」
の裏にある皿ので、煙を燻らせながら川が父にってかかったことがある。
父は静かに煙のを落とし、言った。
「その結果、誰にも教えられない、言葉にもできない属な技術ばっかりが現に残っちまったんだろうが」
川が息を呑むのを、父は見逃さなかった。
「いいか川。俺がんだら緒に消えて無くなるような技術なら、そんなもんは最初から『会社の技術』とは言えねえんだよ」
そのの川は、何つ反論できずにち尽くしていた。
、父はフックたちと共に、ある壮な作業に着した。
森精が培ってきたすべての加ノウハウを、客観なデータとしてパソコンに記録し、残していく作業だった。
部品ごとの切削速度、回転数、使用する刃物の摩耗限度、ワークを械に固定するための特注治具の図面、過に発した良の原因と対策、果ては械ごとの季節による変位の癖に至るまで――そのすべてをデジタル化し、誰でも閲覧・再現できるようにするというのだ。
「そんなもん、パソコンの画面に打ち込んだところで、職の指先の勘や呼吸が残るわけねえでしょうが」
川はそう吐き捨て、曜の夕方にわれる記録の打ちわせには、ただの度も顔をさなかった。
「勘を残そうとしてるから、記録してんだよ」
父は笑ってそれ以追及しなかったが、川はの本職たちに対しても、