"夫が失明してから、私はもう明かりを消せない" 第5話
私の恐怖など、最初から彼の勘定には入っていなかったのだ。
「分かったわ」
私はちがった。 伝票をに取る。
「美穂……? どこへくんだ? 美穂!」
見えない瞳を彷徨わせ、弘が両を伸ばす。 そのが私のコートの裾をかすめたが、私は歩退いてそれを躱した。
「鍵を呼んで、マンションのシリンダーを交換する。あなたにはしい鍵は渡さない」
「待ってくれ! 俺はどうすればいいんだよ! に入れないじゃないか!」
「実に連絡しなさい。お義母さんに迎えに来てもらうように、私から話しておくから」
「美穂! 頼む、許してくれ! 美穂!」
背で響く夫の鳴のような懇願を無して、私はレジへ向かった。
午。
私はネットで見つけた緊急の鍵業者を呼び、自宅マンションの鍵をディンプルキーのロックへと交換させた。 費用は万円かかったが、迷いはなかった。
作業が終わると、私はクローゼットからスーツケースを引きし、自分の類と仕事具、必な類を詰め込んだ。
弘の私物には切を触れなかった。 リビングのテーブルのに、弘の携帯話と、義母の連絡先をいたメモだけを残した。
荷物をまとめ終え、部を見渡す。
丁寧に貼られた段差のスロープ。 具の角の緩衝材。 毛のい、特注の防音絨毯。
すべてが、滑稽な茶番の残骸に見えた。
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私は玄関のロックをしっかりと施錠し、マンションをた。 駅のビジネスホテルにチェックインし、シングルルームのベッドに荷物をろした。
計の針は午を指していた。
私は弘の携帯話の番号を着信拒否にし、代わりに黒田直の番号へ、いショートメッセージを送信した。
『マンションの鍵はすべて交換しました。警察と司法士には、夜の法侵入と借の経緯についてすべて相談済みです。今、私や弘に切づかないでください。これ以接触を図るなら、居侵入と恐で被害届を提します』
送信完の表示を見届け、く息を吐きした。
これで、あの悪のような夜からは解放されるはずだった。 法な続きはこれからだが、なくとも、夜に寝を覗き見られる恐怖からは逃れられた。
ホテルの狭いユニットバスでシャワーを浴び、コンビニで買ったサンドイッチを胃に流し込んだ。 体は極限まで疲労していたはずなのに、神経がぶって眠気は向に訪れなかった。
午。
部のかりを消し、ベッドに入った。
井の非常灯の暗い緑のを見つめながら、私はようやく息ついた。
そのだった。
枕元に置いていたスマートフォンが、く振した。
ブブッ、と乾いた音がシーツ越しに響く。
画面を見ると、登録のない番号からのショートメッセージだった。
胸の奥が、嫌な予でたく軋む。
指先を震わせながら、メッセージをいた。
文字はもなかった。
ただ、枚の画像ファイルが添付されていた。
サムネイルをタップして、読み込む。
画面に表示された写真を見た瞬、私の喉の奥から、声にならない空気が漏れた。
それは、暗ので撮された写真だった。
暗い青いに照らされた、ベッドのの景。
掛け布団を肩まで引きげ、横を向いて眠っている女性の横顔が、至距から写しされていた。
私だった。
撮された角度は、引き戸のある廊側からではなかった。
ベッドの側。 弘が寝ているはずの、あの所からだった。
枕のすぐ真横、私の顔からわずかセンチほどの至距から、見ろすようにして撮られていた。
そして、私の顔の向こう側—— 写真の暗がりのに、パジャマ姿の弘の肩が写り込んでいた。
弘は、ベッドの端に浅く腰掛け、真っ直ぐを見つめていた。
その弘のすぐ隣に、撮者が座っていたのだ。
は並んで座り、眠っている私の顔を、この距で見ろしていた。
数秒、同じ番号から、通目のメッセージが届いた。
い、だけの文章。
『奥さんの寝顔はおとなしいって言ってたけどさ。
気つけられたの顔、ずいぶん険しかったね』
スマートフォンの画面が、指ので凍りついていた。
あの夜。
私がシーリングライトを点灯させた、あの瞬。