"夫が失明してから、私はもう明かりを消せない" 第4話
私が咄嗟にグラスを引いた。
「言ったら……おは、俺を捨てるだろ」
けない、泣きしそうな声だった。
「もう捨てられてるのと同じよ。自分の妻が怯えてるのを分かっていて、の男を夜に引き入れるような夫なんて」
弘の目から、粒の涙がこぼれ落ちた。 見えない瞳から流れる涙は、かつてなら私の胸を締め付けたはずだった。
けれど今は、ただ気悪さしかなかった。
「……百万なんだ」
弘が掠れた声で漏らした。
「百万?」
「、黒田に誘われたんだ。覚障害者向けの歩アシスト器を輸入販売するベンチャー企業があって、当事者の役員として名を貸せば、毎配当が入るって」
私は息を詰めた。
あのの夜、弘が興奮気に語り、私が「怪しい投資ならやめて」と蹴したあの話だ。
「おには内緒で、消費者融とからを引っ張った。退職の払い分も全部突っ込んだ。でも、会社なんて最初から実体がなかったんだ。黒田もグルだったのかどうかは分からない。でも、は全部消えた」
「……それで?」
「俺の座にはもうがない。そしたら黒田が、借の債権を買い取ったとか言って、急に脅してきたんだ。毎万返せって。払えるわけがないだろ……」
「だからって、どうして夜にに入れるのよ」
私の声が、自然とく鋭くなった。
「どうして実印なの? どうしてこのマンションを狙うの?」
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弘は両で顔を覆い、しゃくりげた。
「黒田が言ったんだ。このを売るしかないって。ペアローンを組んでる共名義だから、おの承諾がなければ売れない。でも、おはこのを弘のためにバリアフリーに改装したばかりだから、絶対に首を縦に振らないだろうって」
胃の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。
私が休にホームセンターへ通い、クッション材を貼り、特注の絨毯を敷き詰めたあの部。 夫がしでも暮らしやすいようにと削った私のと労力を、彼らは最初から「売却の邪魔な障害」として見ていたのだ。
「だから……黒田が提案したんだ」
弘の指の隙から、途切れ途切れの告が零れ落ちる。
「ので、しずつ審なことが起きれば……おが気悪がって、引っ越したがるんじゃないかって」
「……なんですって?」
「最初は、スリッパの位置を変えたり、置物の向きを変えたりするだけだった。おが『この、何かがおかしい』って言いしたら、それに同調して、『物騒だから売って、郊の賃貸にでも移ろうか』って誘導するつもりだったんだ」
のが真っになった。
ここヶ、私がじていたあのら寒い違。 自分の記憶違いを疑い、認能が落ちたのではないかと怯えていた々の正体。
すべて、この男と黒田が仕掛けた演だった。
「じゃあ……あの夜のことは?」
私は震える拳を膝ので握りしめた。
「どうして私の位置を追ったの? どうして毎晩、私がどっち側に寝てるか確認したの?」
弘は首を激しく横に振った。
「あれは……あれは黒田の単独だ! 俺は止めたんだ! リビングの物をかすだけでいいって言ったのに、あいつ、だんだんエスカレートして……おの寝まで入って実印を探すって言いして……!」
「嘘をつかないで!」
内の客が何か、驚いたようにこちらを振り返った。 私は荒くなった呼吸をえ、声を押し殺した。
「あなたは昨夜、スマホの画面をらせて、黒田さんに図を送っていた。戸をけていたのもあなたよ」
弘は答えない。
ただポロポロと涙を流し、テーブルに額を擦り付けるようにして項垂れていた。
「……怖かったんだよ」
い沈黙の、弘がさく呟いた。
「借のことがバレたら、おは確実に俺を捨てるとった。目が見えなくなって、収入もなくなって、その百万も借を作った男なんて、誰が面倒を見るんだよ」
「だからって、私を脅かしていい理由になるとうの?」
「違うんだ、美穂……! 俺は、おに捨てられたくなかっただけなんだ!」
その言葉を聞いた瞬、私ので何かが完全にえ切った。
この男は、反省しているのではない。 自分が犯した裏切りのさに怯えているのではない。
ただ、「自分が困窮すること」を恐れているだけだ。