"義母を無償介護した3年、夫は私の名義で毎月15万円を受け取っていた" 第18話
義母の濁った瞳が、実の息子と娘をたく見据えた。
「オムツを替えてもらうたびに、いくら引かれるんだろうって怯えるような暮らしは御免だよ。美保さんに甘えきって、あんたたちを野放しにしてきた私の自業自得だ。入居のは、理恵が返す百万を使う。りない々の費用は、私のからす」
義母は元の類に、麻痺の残るで、ゆっくりと指印を押した。
「渡辺さん。これからの連絡先は、このにしてください。美保さんには、もう切の迷惑をかけないと、約束しますから」
「承いたしました」
渡辺さんが帳の連絡先覧から、私の名を線で消しった。 その瞬、私の肩から、にわたってへばりついていたたい鎖が、音をてて崩れ落ちていく覚がした。
「美保さん……」
義母が、さく私を呼んだ。
「本当に……すまなかったね。あんたの親切に、あぐらをかいていたよ。謝って済むことじゃないけれど……許しておくれとは、言わないから」
私はく礼した。
「お義母様。お体、どうぞお事になさってください」
それ以の言葉は、探しても見つからなかった。 憎しみも、りも、すでに通り過ぎていた。 ただ、制度と契約に守られた所で、このが穏やかに余を過ごすことを、元・護師として願うことしかできなかった。
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清算から週。 区役所の戸籍課の窓に、枚の類を提した。
『婚届』
すでに夫の署名と捺印が済まされた、ペラペラの切れ。 窓の職員が淡々と続きをめ、しい民票が発された、私の姓はぶりに旧姓へと戻った。
アパートの退続きと荷物の搬は、夫が会社にっている平の昼に、専の引越し業者を使ってすべて終わらせていた。 あのから持ちしたのは、私が独代から使っていた装ケースと、仕事用の籍、そして自分の料で買った数組のだけだった。
具も、も、すべてあのに置いてきた。 何も惜しくなかった。 あそこに染み付いたアンモニアの臭いも、族の欺瞞の気配も、ミリたりともしい活に持ち込みたくなかった。
駅の反対側、病院から徒歩分の所に借りた、ワンルームの賃貸マンション。 狭い部だったが、向きの窓からは柔らかな差しが差し込み、真しいフローリングはく澄んでいた。
あれから、が過ぎた。
夫から分割で支払われるはずだった銭は、公正証の威力が功を奏したのか、ボーナスの加算を含めて滞ることなく私の座へ振り込まれ、先、全額の清算が完した。 て替えていた万円も、利息とともに戻ってきた。
の噂で、夫のそのを聞いた。
毎万円の支払いに追われ、乗っていたミニバンを放し、古い軽自に乗り換えたという。 実は義母が施設に入ったことで空きとなり、ローンの残債を抱えたまま、維持費と固定資産税だけが夫の肩にくのしかかっているらしい。
理恵は、返還した百万円の穴埋めのためにパートのシフトを限界まで増やし、親族の集まりには切顔をさなくなったという。 義母が暮らす老ホームへ見いにくのも、今では数ヶに度、事務な続きのだけだとケアマネの渡辺さんから聞いた。
族という名の甘えを剥奪されたは、今、自らが蒔いた現実の種を、自らので刈り取り続けている。 けれど、それはもう、私のの界のにある来事だった。
午半。 交代制の、過酷な16夜勤が終わった。
ナースステーションで申し送りを終え、ナースシューズからスニーカーへと履き替える。 ロッカールームをると、の澄み切った朝の空気が、照った頬をよくやしてくれた。
駅のスーパーにち寄り、焼きたてのバゲットと、さなパックのトマトスープを買う。 誰の朝の好みを気にする必もない。 誰の血圧を配して、の噌汁を作る必もない。
アパートの階段をがり、階の突き当たりの部のにつ。
バッグの奥から取りしたのは、しくに入れた、私だけのの鍵だった。
鍵穴に差し込み、へ回す。 カチャリ、と滑らかな応えを残して、ドアは抵抗なく静かにいた。
玄関にを踏み入れると、洗いたてのリネンの清潔なりが腔をくすぐった。 靴を揃えて脱ぎ、キッチンで買ってきたスープを温める。 トースターで軽く焼いたパンをかじり、温かいスープを、ゆっくりと喉へ流し込んだ。
全の細胞が、じんわりと解きほぐれていく。
リビングの掃きし窓へ歩み寄り、遮カーテンを引いた。 部のが、よい暗がりに包まれる。
ベッドに倒れ込み、羽毛布団を首元まで引きげた。 シーツのたい触が、疲れ切った肌に吸い付くように馴染んでいく。
ナースコールの音も、インターホンの拒絶のブザーも、ここにはない。 起きたら、保留にしていた緩ケア研修の半のレポートをこう。 来には、待ちに待った認定審査の試験が控えている。
私はく、静かに息を吐きした。
たかった瞼を閉じる。 今回の夜勤けは、誰にも邪魔されることなく、まず眠れる。