"百日祝いを門前払いされた娘に、24年後届いた祖母の手紙" 第11話
この男の脳内には、良も、罪悪も、者への敬もしない。 ただ、自分を救うための損得勘定しかないのだ。 父親と、まったく同じ血が流れている。
私は睨みつけ、い切り腕を引いて悠のを振り払った。
「絶対に、かない」
「おい!」
私は振り返らずに階段を駆けり、カフェをびした。 たい夜が照った頬を叩く。 息を切らしながら改札を通り抜け、ホームへと急いだ。
の到着を告げるアナウンスが響く、階段をりきったホームの端で、背から再び音が迫ってきた。
改札を突破してきたのか、息を乱した悠が、私のくを塞ぐようにちはだかった。 周囲の乗客たちが、怪訝そうに私たちを見ている。
悠は舌打ちをし、ポケットにを突っ込んだまま、顔を私の元へづけた。 その瞳には、もはや弟としての嬌など微も残っていなかった。 借取りに追いつめられた獣のような、たく濁っただけがあった。
「姉貴、よく聞けよ」
悠は周囲に聞こえないような、けれど骨の髄まで凍りつくようない声で囁いた。
「そのにて、親父から渡される封筒を受け取って、をげるだけでいいんだよ。おが言『ありがとうございます』って言えば、全部丸く収まるんだ」
のブレーキ音が、キーッとけたたましく響き、たいがホームを吹き抜けた。
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ドアがき、乗客たちが吐きされてくる。
悠は私の首を再び掴み、逃げられないように指をい込ませながら、最の言を突きつけてきた。
「来週までに腹括っとけよ。おがそのに来てサインしねえと、親戚からもからも、続きがめられねえがあるんだからな」
悠の指がい込んだ首に、赤の痣がじわりと浮かびがっていた。
帰りのの、吊り革を掴むが微かに震える。 痛みのせいじゃない。 あの男の濁った瞳と、平然とのを担保にするその浅ましさに、胃の奥が雑巾を絞られるように痙攣していた。
――『おがそのに来てサインしねえと、親戚からもからも、続きがめられねえがあるんだからな』
駅の階段を駆けがり、夜のたい空気を胸いっぱいに吸い込む。 そのままち止まることなく、私は母の待つアパートへ向かった。
玄関の引き戸をけると、母は廊にち、私の帰りを待っていた。 私の顔、そして首の痣を見た瞬、母の目がすっと鋭く細くなった。
「……灯」
「お母さん、弁護士さんのところへこう」
私の声は、く、乾いていた。 泣き言を言っている暇なんて、秒もなかった。
「もう、族の話しいなんて次元じゃない。あのたちがやっていることは、完全に犯罪よ」
母は何も言わず、私の痛む首を両でそっと包み込んだ。
母ののひらは温かく、かった。 私をで育てげるために、の械を回し続けてきたのだった。
「ええ、きましょう。証拠なら、ここにあるわ」
母が指差した居のテーブルのには、あの古いクッキー缶の類と、私が持ち帰った写真のコピーが、几帳面に列していた。
翌の午、私たちは都内の雑居ビルにある法律事務所の扉を叩いた。 母が昔、の同僚から紹介されて控えていた、婚や親族トラブルにい女性の弁護士――先のオフィスだった。
類と写真、そして叔母の節子さんから預かった振込控えのコピーに目を通しながら、先は縁の鏡の奥で静かに息を呑んだ。
「……なるほど。これは像以に根がいですね」
先は元のメモ帳に、ペン先で際よく相関図をき込んでいく。
「まず、過の教育費やお祝いについて理しましょう」
テーブルのに並べられたのは、節子叔母さんをはじめ、協力を約束してくれたの親戚が保管していた元の記録だった。 が分の全履歴を今すぐしてくれるわけではない。 けれど、親戚側が几帳面に残していた当の計簿、引きし記録、そして父から送られてきたやメッセージの束があった。
『灯の学の入学納付を預かった』 『の制代と修学旅の積がどうしてもりない』 『学の初度納入、美紀さんがどうしても面できないと泣きついてきた』