"ローンを完済した私に、義母は「家なら売った」と言った" 第10話
「典型な買い叩きですね」
「先、夫は『登記簿に名がない以、おには権利がない。万円はただの活費だ』と言い張っています」
「法な根拠はゼロです」 弁護士はきっぱりと言い切った。
「本の民法における財産分与は、名義の如何を問いません。婚姻期に築かれた財産は、実質な共財産とみなされます。ましてやの婚姻期があり、奥様が継続して収入を得て計と返済を支えてきた事実は、通帳の履歴から完全に証できます。『活費だった』というご主の主張は、裁判所では切通りません」
弁護士の力い言葉に、しだけ呼吸が楽になった。 けれど、私の胸には、どうしても拭いれない別の執着が居座っていた。
「……先」
「はい?」
「あのは……本当に、もうどうにもならないんでしょうか」
弁護士は、困ったように眉をげた。
「先も申しげましたが、産会社への売却は法に効に成してしまっています。買い取った会社に落ち度はありませんから、法な売買として登記を抹消させることは能です」
「買い戻すことは……できないんでしょうか」
わずから漏れた言葉に、弁護士は目を見張った。
「買い戻す、ですか?」
「はい。リースバックの契約には、再売買の特約……買い戻しの条項がついていることがいと聞きました。
広告
私が、自分のおと、もらえるはずの財産分与で……あのを買い戻すことはできないでしょうか」
弁護士はく息を吐き、静かに首を振った。
「仕組みとしてはします。ですが奥様、それはあまりお勧めできません。リースバックの買い戻し価格は、売却価格よりもかなりく設定されているのが通常です。それに……」
弁護士の言葉が途切れた。 『そこまでして、あの古いに執着するがあるのか』 言にそう滲んでいた。
分かっていた。 静になれば、馬鹿げた執着だと分かっていた。 築の造宅。漏りの配もあり、壁の塗り替えも必なボロ。 けれど、私にとってあのは、失われたの青そのものだったのだ。
歳で嫁いできて、毎のように働いて、義母の嫌に耐えながら磨きげてきた。 庭に植えた犀。 あのまで奪われてしまったら、私のの苦痛は、体何のためにあったのか。 何ひとつ元に残らない空虚に、が耐えられそうになかったのだ。
私はそので、登記事項証にかれていた管理会社へ直接連絡を入れた。 買い戻しの条件を確認したい、と。
、管理会社の請け産会社の担当者が、査定を持って旧宅を訪れた。
リビングのテーブルのに広げられた類。 担当の若い男は、卓を叩きながら淡々と告げた。
「岸本様。こちらの物件の再売買――買い戻しをご希望のですが、現の規定に基づく買戻価格は、諸経費を含めまして【千百万円】となります」
を疑った。
「……さんぜん、さんびゃくまん……?」
「はい。の買取価格は千百万円でしたが、そこから弊社の利益、再取得に伴う登記費用、およびの隣相の昇を加いたしますと、この額が最ラインとなります」
千百万円。 売ったより、百万円もい。
が真っになった。 仮に、夫から財産分与として千百万円を勝ち取れたとしても。 私の微々たるパートの貯百万円をしても、千百万円。 残りの千百万円を、歳のパート勤務の私がローンで組めるわけがない。 払いに決まっている。
担当者が帰り、静まり返ったリビングで、私はち尽くした。 買い戻せない。 私のは、買い戻すことすら許されないのだ。
元が崩れ落ちるような覚の、私はキッチンの隅でく唸る蔵庫にをついた。 たい属の触。 、騙され続け、耐え続け、最は千百万という無慈な数字のに叩きのめされる。
そのとき、背で音がした。
いつのにか帰宅していた彦が、廊のから私を見ていた。 その目には、いつもの酷なとは違う、何かを値踏みするような奇妙なが宿っていた。
「……買い戻そうとしてるのか」
夫がく呟いた。
「おには関係ないわ」