"ローンを完済した私に、義母は「家なら売った」と言った" 第7話
曜の朝、義母の部からが聞こえてきた。
いつもならを引きずるようにして起きてくる歳の義母が、今朝はやけに軽だった。 鏡ので入に髪を撫でつけ、箪笥の奥から引っ張りしてきた豆のよそきワンピースを着ている。 首元には、何ぶりかに見る物のパールのネックレス。
「澄子さん、お昼の支度はいらないわよ」
義母は姿見に映る自分の姿を確かめながら、度もこちらを見ずに言った。 元には、伊勢丹の袋。 には、昨所の菓子で買わせた級なカステラが入っている。
「彦と待ちわせなの。織さんのマンション、見にくんだから」
私の喉の奥がきゅうと締まった。 臓が嫌な音をててねる。
「……そうですか」
それだけ答えるのが精杯だった。 義母は満そうに元を歪め、カチリとハンドバッグの留めを鳴らした。
「若いと暮らすとなると、こっちもなりに気を遣わないとね。あのマンション、オートロックでもついてるんですって。あんな古いボロにも縛り付けられて、私の体もガタがきてるんだから。これからは優雅に余を過ごさせてもらうわ」
澄子さん、あんたもく次のアパートでも探しなさいね。 そう言い残して、義母はタクシーを呼んでてった。
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残された静かなリビングで、私はキッチンの流し台を布巾で拭いた。 使っている蔵庫が、ブーンとな唸りをげている。 指先が微かに震えていた。
あのは、本当に信じているのだ。 息子が買い与えたのマンションに、自分の部が用されていると。 、私に内緒でを売ったを差しし、若い女と結託して私を追いせば、自分だけはしいで泰だと。
けれど、私の脳裏には、数に夫が見せたあの瞬の引き攣った表が焼き付いてれなかった。 『母さんの部は番当たりのいい部にしてある』と義母が叫んだとき、あの男はらかに目を逸らした。
胸の奥に、たくてざらついた予が渦巻いていた。
事態が急変したのは、そのの夕方過ぎだった。
激しいの音に混じって、玄関のドアが乱暴にく音がした。 ガタガタと鍵穴を探る器用な属音。 続いて、ドサリと何かがに倒れ込むような鈍い音が響いた。
「……お義母さん?」
廊へた私は、息を呑んだ。 玄関のたいタイルのに、義母がへたり込んでいた。
に濡れた豆のワンピースはで汚れ、丁寧にセットされていたはずの髪は乱れんでいた。 には、あの伊勢丹の袋。 けれど底が濡れて破れ、のカステラの箱が無惨に転がり落ちていた。
「お義母さん、どうしたんですか……!」
駆け寄って肩にを置こうとした瞬、義母の体がビクッとねた。 顔をげた義母の表を見て、背筋が凍った。
老鏡が斜めにずれ、落ち窪んだ目は真っ赤に充血している。 唇は青に変し、刻みにガチガチと震えていた。 それはりではなく、底れない恐怖に叩き落とされたの顔だった。
「……あの女……」
掠れた、震える声だった。
「あの女……何なのよ……」
「え……?」
「入れてくれなかったのよ……! エントランスの、あのガラスの扉ので……!」
義母は私の腕にすがりついてきた。 骨張った指先が、痛いほど私のの腕にい込む。 いつも私を虫けらのように見ろしていたあの傲なは、完全に消え失せていた。
義母のから途切れ途切れに吐きされたのは、あまりにも無慈な現実だった。
さいたま内の築浅マンション。 彦と待ちわせ、気揚々とオートロックのエントランスをくぐろうとした義母のに現れたのは、浦織だった。
浦織は、義母が差ししたカステラの袋を受け取りすら拒否した。 エントランスの自ドアを背にして腕を組み、ややかな線で義母を見ろしたという。
『お母様、何の御用ですか?』
『何のって……彦と緒に、私の部を見に来たのよ。当たりのいい部を用してくれたって……』
義母の言葉を、浦織はで笑って遮った。
『部? 何を勘違いなさっているんですか』
徹な声が、エントランスの理に響いた。