"彼女は毎日母を世話し、毎週夫と夜を過ごす" 第11話
母の着替えを済ませ、事故に見せかける隠蔽作をってから通報したのです」
私は最に、奈緒さんの署名と捺印がされた『経緯説』を突きつけた。
「彼女は自の罪を認め、この隠蔽の全容を文にして提してくれました。……調査員の方々、お聞きします。を利用して庭を脅かし、介護者の命を危険に晒したのは、体どちらでしょうか?」
リビングは、んだように静まり返っていた。
健司の呼吸だけが、浅く、荒く、ヒューヒューと喉を鳴らしている。
「嘘だ……! 全部、あいつらが組んで俺を嵌めようとしてるんだ!」
健司がテーブルを激しく叩いた。 顔面を真っ赤に染め、唾をばしながら喚き散らす。
「俺は被害者だ! 母さんのために良かれとって……! おい美咲、お、誰のでこのが回ってるとってんだ! 親族に全部バラしてやるぞ! おが母親を見捨てたって、会社にも全部……!」
そのだった。
カチャリ、と玄関のドアがき、落ち着いた音が廊を歩いてきた。
リビングの入りに姿を現したのは、黒いスーツを着た髪交じりの男性だった。 私の顧問弁護士、先だ。
「健司さん。それ以のご発言は、ご自のをさらに悪くするだけですよ」
先は胸元から名刺を取りし、調査員に渡した。
「妻側の代理を務めております、弁護士のです。
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すでに所轄の警察署、ならびに区の齢者福祉課に対し、齢者虐待防止法に基づく通報、および保護責任者遺棄の疑いについて事実確認の相談を申し入れております」
健司の膝が、目に見えてガクガクと震え始めた。
「ぎ、虐待……? 遺棄……?」
「介護者を図に放置し、篤な体温症に陥らせた為は、派な犯罪になり得ます。さらに、今回の事業所に対する虚偽の通報は、偽計業務妨害および名誉毀損に該当します。……すでに民事の損害賠償請求、ならびに貞為に基づく慰謝料請求の訴状も作成済みです」
先が、鞄から通の茶封筒を取りし、テーブルの健司のに置いた。
『婚協議申入』。
健司の線が、そのいのに落ちた。 完全に、退が塞がれた瞬だった。
佐伯調査員が、静かにちがった。 その顔には、先ほどまでの困惑はなく、ただややかな軽蔑だけが浮かんでいた。
「健司様。本部および区役所に対し、本奥様から提された証拠をそのまま提いたします。当事業所に対する虚偽の通報、ならびに業務妨害為については、顧問弁護士を通じてしかるべき法措置を検討させていただきます」
「ま、待ってください! 誤解なんです、佐伯さん!」
健司がすがりつこうとしたが、佐伯氏と川氏は瞥もくれず、私に向かってく礼した。
「奥様。貴な証拠のご提示、ありがとうございました。林ヘルパーに対しては、就業規則違反および隠蔽への加担として、厳正なる社内処分をします」
「……はい。よろしくお願いいたします」
が玄関をていく。 いドアが閉まる音が、健司の破滅を告げる鐘のように響いた。
それからの数週、夫はが変わったようになった。
からてけという私の求を泣いて拒み、健司は必に「献な夫」を演じ始めた。
朝に起き、母のオムツを替えた。 奈緒さんから教わった通り、母の体を丁寧に抱き起こし、ポータブルトイレへ誘導した。 母が好きな甘めの噌で根の噌汁を作り、スプーンでずつ元へ運んだ。
仕事から帰ると、健司はエプロン姿で台所にち、母の洗濯物を畳んでいた。
「美咲、おかえり。母さん、今はずっと嫌が良かったぞ。昼寝もちゃんとしたし、分も百ミリ取れた」
夫の顔には、かつての傲さの欠片もなかった。 私の顔を伺い、怯えたように微笑みかけてくる。
母が夜に起きて叫んだときも、健司は栓をすることなくび起きて、 「丈夫だよ、母さん、俺がいるからね」 と、汗だくになりながら背をさすり続けた。
ヶまで、母が粗相をするたびに「汚い」「おがやれ」と罵っていた男の姿は、そこにはなかった。
できるのだ。 初めから、すべてできたのだ。
介護ができないわけでも、器用だったわけでもない。