"彼女は毎日母を世話し、毎週夫と夜を過ごす" 第8話
「……通報?」
「『担当ヘルパーの林奈緒が、業務のを利用して庭内に入り込み、利用者の夫を誘惑して肉体関係を迫り、銭を求してきた』って……! 『断ると、認症の母に危害を加えると脅迫されている』って……!」
喉の奥が、カッとくなった。
……は? 何を言っているの、あの男は。
「事業所から、今すぐ自宅待を命じられました……。資格止になるかもしれないって……警察への被害届も検討してるって言われて……! 美咲さん、私、そんなこと……おだって、健司さんが勝に振り込んできたのに……っ!」
話の向こうで、奈緒さんが過呼吸を起こして激しく咳き込んでいる。
先を打たれたのだ。
奈緒さんが自分を裏切り、真実を私に話すことを察した健司が、先に彼女の息の根を止めにかかった。 「悪質なヘルパーによる被害者」の仮面を被り、奈緒さんの社会信用を完全に抹殺することで、彼女がこれからにする真実をすべて『逆みによる妄』に仕てげる気だ。
どこまで腐れば、そんなが打てるのか。
「……奈緒さん、聞いて」
私は乾いた声で、く告げた。
「何も喋らないで。LINEも消さないで。事業所のヒアリングにも、で答えちゃダメ」
「でも……私、もう……」
「私が、必ず証するから。待ってて」
通話を切った瞬、玄関のシリンダーがい音をてて回った。
ガチャリ。
臓が、ねがった。
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チェーンはかけていなかった。 勢いよくいたドアの隙から、ガラガラとキャスターを引きずる音が響く。
きなスーツケースを転がしながら、廊を股で歩いてくる音。
健司だった。
「よお、美咲」
悪びれるなど微もない、あまりにも軽な声。 健司はスーツの着を脱ぎ、リビングのソファの背もたれに乱暴に投げ捨てた。
「昨は悪かったな。俺もちょっとに血がってた」
私はちがったまま、歩もけなかった。 喉の奥が張り、指先が刻みに痙攣する。
「……何しに来たの」
「何しに来たって、に帰ってきたんだよ。自分のだろ」
健司はキッチンへ歩いていくと、蔵庫から麦茶のポットを取りし、グラスにも注がず直接をつけてみ干した。 喉仏がする。その品な仕のすべてに、理な嫌悪が込みげる。
「奈緒のやつから、連絡あったろ」
健司は元を拭い、く笑いながら私を振り返った。
「あの女、とんでもないだったよ。介護のプロ面して、裏じゃ俺にしなだれかかって、を毹り取ろうとしてきやがった。危ないところだったぜ」
「……よくそんな嘘が吐けるわね」
私の声は、くをうように震えていた。 だが、健司はで笑った。
「嘘? 世が見れば、どっちが嘘かなんて発で決まるんだよ」
健司はゆっくりと私にづき、ダイニングテーブルに両をついてを乗りしてきた。
その瞳の奥にあるのは、純粋な悪と、絶対な計算さだ。
「過ぎの堅物な妻と、介護の寄り。そこに現れた若いヘルパーが、裕福なの旦を誑かして庭を壊そうとした。……絵に描いたような構図だろ? 本部の監査も、区役所の連も、みんな俺の言うことを信じるよ」
「奈緒さんは、全部記録を持ってるわ。あなたとのLINEも、全部」
「あんなもん、いくらでも偽造できるって突っぱねれば終わりだ。第、あいつの座に俺がを振り込んでたのは事実だからな。『脅されて払わされていた』って言えば、向こうは完全に恐の加害者だ」
息が詰まる。 この男は、初めからこうするつもりだったのだ。 女を弄び、利用し、都が悪くなれば犯罪者に仕てげて切り捨てる。
「美咲、おもバカじゃないんだから、どっちにつくべきか分かるだろ」
健司は、私の肩にを置こうとした。 私が激しくを引くと、わずかに眉をひそめたが、すぐに侮蔑を孕んだ笑みに戻った。
「あいつを庇っても、おには円の得もないぞ。それどころか、あんな破廉恥な女をに引き入れて、母さんを危険に晒してたってことになれば、おの監督責任だって問われる」
「……何が言いたいの」
「取引だよ」
健司はスーツケースをポンと叩いた。
「俺が、戻ってきてやる」
を疑った。
「……は?」
「母さんの介護、俺がやるよ。
あいつから教えてもらったからな。オムツの替え方も、子への移乗も、根の噌汁の作り方も、全部マスターした。