"彼女は毎日母を世話し、毎週夫と夜を過ごす" 第6話
嘘だ。 嘘だと言ってほしい。
あの男が、そこまで腐っているはずがない。
カチャリ。
玄関の鍵が回る音がした。 夕方。夜介助の引き継ぎのために、奈緒さんが入ってくるだった。
「こんばんは、美咲さん」
いつものように、伏し目がちにリビングへ入ってきた奈緒さん。 そのには、母の好きな柔らかいプリンの入ったコンビニ袋が提げられていた。
私は、ちがらなかった。 テーブルのに、あのノートと診断を並べたまま、静かに彼女を見げた。
「……奈緒さん」
私の声のたさに、奈緒さんがビクッと肩を揺らした。
「はい……?」
「これ、見て」
私は、修正液の跡が透けたノートのページを指さした。
奈緒さんの線が、面に落ちる。 その瞬。 彼女の顔から、サーッと血の気が引いていくのが、目に見えて分かった。
持っていたコンビニのビニール袋が、カサリと音をててに落ちる。
「……あ」
唇が、刻みに震えている。
「これ、あなたがいたのよね」
私の声は、く、く、自分でも驚くほど落ち着いていた。 りを超えて、全の細胞がたい殺で満たされていくようだった。
「。母さんが骨折した夜。あなたは015分に、このに来ていた」
「美咲さん、それは……」
「健司はね、母さんが目ので転んだって私に言ったのよ。でも母さんの体温は34度台だった。病院のカルテには、何もに放置されていたっていてある」
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私は歩、奈緒さんに詰め寄った。
「教えて。あの夜、健司はどこにいたの?」
奈緒さんはずさりし、背が壁にぶつかった。 瞳が恐怖で泳いでいる。
「私……言えません……そんなの、言ったら……」
「言いなさい!!」
静まり返ったリビングに、私の号が響き渡った。 自分でも聞いたことのない、獣のような叫びだった。
奥の部で、母がうっすらとじろぎする気配がした。 私は息をえ、奈緒さんの襟元を掴まんばかりの距まで顔をづけた。
「あの夜、私は阪にいた。母さんが怪をしたのは自分のせいだって、半、毎自分を責め続けてきた! 仕事を諦めて、世を捨てて、を全部削って母さんの面倒を見てきたのよ! ……健司は、あの夜どこにいたの!?」
奈緒さんの目から、粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。 細い肩が、激しくする。
「……私の、部です」
喉の奥から絞りされたその告に、私の界が真っ暗になった。
「……何?」
「健司さん……あのの夜に、私の部に来たんです。『今は妻が張だから、朝まで緒にいられる』って……」
が抜けたような覚だった。 っていられない。膝がガクガクと震える。
「母さんは? でにいたの?」
「はい……。健司さん、お母様に眠薬をめにませてきたから、朝まで絶対に起きないって……そう言って、私の部でお酒をんで……」
奈緒さんは顔を両で覆い、しゃくりあげた。
「夜の過ぎに、健司さんのスマホに着信があったんです。見守りカメラの体検通でした。画面を見たら……お母様が廊で倒れてて……かなくなってて……」
「……っ」
「パニックになって、でで駆けつけました。お母様、廊のたい板ので、失禁したまま倒れてて……体が氷みたいにたくなってて……」
呼吸ができない。 酸素が肺に入ってこない。
私の母が。 え切った廊で、失禁して、骨を折った激痛に耐えながら、何も、何もで倒れていた?
その、夫は。 この女の部で、酒をみ、肌をねていた?
「健司さんが……救急を呼ぼうとする私を止めたんです」
奈緒さんの震える声が、の奥に突き刺さる。
「『今すぐ呼んだら、俺たちが緒にいたことがバレる』って……『事業所に連絡がいったら、おもクビになるぞ』って脅されて……。それで、健司さんがお母様を抱き起こして、パジャマを着替えさせて……そのですぐ転んだように見せかける作をしてから、救急を呼んだんです……」
「……っ、あ……」
声にならない鳴が、喉の奥で詰まった。
涙すらなかった。 ただ、臓が握りつぶされるような激痛がる。
それだけじゃなかった。 奈緒さんはに崩れ落ち、私の元に両をついた。
「ごめんなさい……ごめんなさい、美咲さん! でも、私、本当に怖くて……!」
「……どうして」
私は、にいつくばる女を見ろした。
声が、異様なほど掠れていた。
「どうして健司は、私のせいだって言ったの? どうして、私が張にったから母さんが倒れたんだって、あんな嘘をついたの……?」