"彼女は毎日母を世話し、毎週夫と夜を過ごす" 第2話
「向こうも暮らしで変そうだったからな。ちょっと助けしてやっただけだ」 「助け……? ふざけないでよ! 私の母のヘルパーなのよ!? このに入りして、私の目ので!」
わずちがり、声を荒らげた。 喉が千切れそうだった。
すると、健司は面倒くさそうに顔をげ、え切った目で私をまっすぐに見据えた。
「声落とせよ。お袋が起きるだろ」
そして、信じられない言葉を、平然とにした。
「で? 騒いで、どうする気配だ?」 「……は?」 「奈緒ちゃんをクビにするのか?」
健司はを組み、酷な笑みを元に浮かべた。
「いいけどさ。からお袋のの世話、全部おでやれるのか? お、も仕事だろ。来週はプレゼンがあるって言ってなかったか?」
喉元に、氷の刃を突きつけられたような覚だった。
「お袋、奈緒ちゃん以のヘルパーは全員追い返したよな。デイサービスも暴れて利用止になったよな。あの子を追いしたら、から誰が呂に入れるんだ? 誰が飯をわせるんだよ」
息ができない。 胸をく殴られたように、肺のの空気が全部吐きされる。
夫は、反省など微もしていない。 私が、母の介護という逃げのない沼に沈んでいることを、誰よりも正確に理解していた。 そして、その沼を盾にして、私を脅しているのだ。
「おが仕事を辞めて、つきっきりで介護するなら、別に今すぐあの子を切ってもいいぞ。
広告
……できるのか? おのそのない料がなくなったら、宅ローンも介護費用も払えなくなるの、わかってて言ってるのか?」
「あなた……自分が何をしたか、分かってるの?」
絞りした私の声は、みじめに震えていた。
「俺は現実な話をしてるだけだ」
健司はちがり、私に背を向けた。
「になるなよ。庭を回すために何が番必か、よく考えろ」
寝のドアが、バタンとい音をてて閉まった。
残されたリビングで、私はち尽くした。 に散らばった通帳を見つめながら、拳を握りしめる。 爪がのひらにい込み、痛みがる。
翌朝、私は事業所に話をかけた。
受話器を握る指が、刻みに震えていた。 奈緒さんを今すぐ担当からしてほしい。別のヘルパーに変えてほしい。 それだけを、喉の奥から絞りすように伝えた。 事業所のサ責(サービス提供責任者)は驚いた様子だったが、私のただならぬ気配を察したのか、理由をく詮索せず、別のベテランヘルパーを配してくれた。
それが、違いの始まりだった。
そのの夕方。 しくやってきた代の女性ヘルパーがを踏み入れた瞬、母の表が変した。
「誰よあんた! てって!」
甲い鳴。 母はにあった湯呑みを掴み、廊へ投げつけた。 陶器が砕け散る鋭い音が響く。
「お母様、落ち着いてください、お着替えしましょうね」
「触るな! 奈緒ちゃんは!? 奈緒ちゃんを呼んでよ!」
母は激しく暴れ、ヘルパーのを引っ掻いた。 私が割って入ろうとすると、母の平が私の頬をい切り叩いた。
パチン、と乾いた音がリビングに響く。 痛くはなかった。ただ、目のが真っ暗になった。
そのから、獄が再した。
母はスプーンをにづけても、固くを閉ざして横を向いた。 分すら摂ろうとせず、無理にませようとすると激しくむせて吐きした。 夜になると、部の隅にうずくまり、何かに怯えるように叫び続けた。
「奈緒ちゃん、奈緒ちゃん、どこっちゃったの……怖いよぉ……」
目の夜。 眠と疲労で、私の界はく霞んでいた。 会社には「母の発」と嘘をついて連続で休みを取っていたが、にはどうしてもせないクライアントとの打ちわせがある。
夜。 廊でポータブルトイレが倒れる音がした。 駆けつけると、汚物にまみれた母が、たいフローリングので泣きじゃくっていた。
「おかあさん……ごめんねぇ……ごめんねぇ……」
子どものように泣く母の背をさすりながら、私はを拭いた。 涙がボロボロと溢れて、の汚れと混ざりう。
リビングのソファでは、健司が腕を組んでこちらを見ていた。 助け起こそうともせず、ただ淡に、私の崩壊を眺めていた。
「だから言っただろ」
健司の静かな声が、からってきた。