"「明日から母をやめます」結婚前夜、席次表を消した私" 第9話
妊娠。 本来なら、放しでび、涙を流して抱きっていたはずのらせ。
けれど、私の胸の奥に広がったのは、温かな祝福のではなかった。 ずしりとく、たい鉛を呑み込まされたような覚だった。
あの娘が、この事実をどう利用するか。 育ててきたからこそ、痛いほど分かってしまう自分がいた。
私は画面を伏せ、く息を吐きした。 返信は、翌朝まで待った。 な言葉を挟まないよう、何度もき直した。
『亮介さん、お辛いご連絡ありがとうございます。 しい命が宿ったこと、からお祝い申しげます。 ただ、私はすでにあのをたです。 夜に駆けつけるようなことはできません。 どうか奈央さんを支えてあげてください。 お母様の体調が落ち着いたら、域の母子帳の交付や産ケアの続きを調べておくことをお勧めします』
それだけを送り、私はスマートフォンの源を落とした。 巻き込まれてはいけない。 同からをせば、あの子たちはまた私を「無償の全網」として消費し始める。 それは、これから親になる娘のためにも、絶対にしてはならないことだった。
季節は巡り、真の厳しい差しがアスファルトを焦がす頃。
別居からヶが過ぎていた。 俊彦とは弁護士を通じて婚調の申してをめていたが、あのは度も調のに現れず、引き延ばしを続けていた。
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「妻が反省して戻るのを待っている」という、どこまでも都のいい言い訳を裁判所に提して。
私は清掃のパートのをしずつ増やし、々の活を完全に自力で回せるようになっていた。 朝に起き、静かな部で淹れたてのコーヒーをむ。 誰の嫌を伺うこともなく、自分ので靴を履き、自分の稼いだで夕飯の魚を買う。 孤独ではあったけれど、のにはぶりの凪が広がっていた。
その平穏を破ったのは、本の話だった。
平、パートから戻り、靴を脱ぎかけた瞬だった。 スマートフォンの画面に表示された名に、臓がねた。
「森本奈央」
あの披宴の夜以来、度も鳴ることのなかった番号だった。
喉の奥がカサリと音をてる。 呼吸をつして、私は通話ボタンをスワイプした。
「……はい、佳代です」
『あ、お母さん?』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、を疑うほどるく、甘えた声だった。 まるで、あの結婚式夜の罵倒も、披宴での糾弾も、最初からこの世にしなかったかのような調子。
背筋に、すっとたい汗が伝った。
『久しぶり。元気にしてた?』
「……ええ。なんとかやっているわ」
『よかった。あのね、用件だけに言うね。今、妊娠ヶに入ったの。男の子なんだって』
弾むような声。 だが、そのるさの裏に張り付いた、こちらの反応を伺うような異様な気配を、私の皮膚が敏に察していた。
「そう。順調なのね。体は事にしているの?」
『うん、つわりもやっと落ち着いてきて。……でね、お母さん。これからについて、ちゃんと話したいとって』
奈央は呼吸置いた。 そして、、私が何かを断るたびに使ってきた、あの「当然の権利」をにする調に戻った。
『私、産のヶから実……じゃなくて、うちの居に来て泊まり込んでほしいの』
部の換気扇の音だけが、やけにきく響いた。
『産も半くらいはいてほしいかな。亮介さんの仕事が激務で、夜泣きとか絶対無理だし。私、産うつとかになりたくないしさ。お母さん、どうせそのワンルーム、狭くて賃もったいないでしょ? うちに来れば賃浮くし、ご飯も緒にべられるし、孫の面倒も見られて鳥じゃん』
鳥。
まるで、私に施しでも与えてやるかのような言いだった。 披宴で私に『母親失格』を突きつけ、断絶の誓約を突きつけたあの娘が。 活の困難に直面した途端、何事もなかったかのように「便利な母親」を召喚しようとしている。
「……奈央」
私の声から、温度が消えていくのが自分でも分かった。
「お腹の赤ちゃんが無事に育っていることは、から嬉しくっているわ。無事にまれてきてほしいと、本当に願っている」
『うん! じゃあ――』
「でも、あなたのにみ込んで、事や育児を引き受けることはできないわ」