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"「明日から母をやめます」結婚前夜、席次表を消した私" 第3話

私はグラスに注がれたウーロン茶にをつけながら、ただ静かにその景を眺めていた。 まるで、分いガラスの向こう側で起きている来事を見ているような、奇妙な疎だった。

そして、司会者の声が会に響き渡った。

「さて、宴もたけなわではございますが……ここで、婦・奈央様より、これまで温かく育んでくださったご両親へ、謝のおがございます」

会の照がゆっくりと落とされた。 ピアノの柔らかな旋律が流れ始める。

メインテーブルのに、奈央がみた。 スポットライトが彼女をく照らしす。

普通なら、ここで便箋をき、涙声で謝の言葉を紡ぐはずだった。 会の誰もが、ハンカチを用し、なフィナーレを待っていた。

だが。

奈央は、を持っていなかった。

彼女の両は、司会者から奪い取るように握りしめたワイヤレスマイクだけを持っていた。

ざわり、と会の空気がわずかに揺れた。

奈央の線が、砂でも、親族席でもなく。 直線に、会の最果て――私が座る席へと向けられた。

その瞳には、昨夜のあのたいが、何倍もの憎悪となって宿っていた。

「皆様、本は私たちの結婚式にお集まりいただき、誠にありがとうございます」

マイクを通した奈央の声は、驚くほど静で、そしてかった。

「を読む予定でしたが……どうしても、このをお借りして、皆様にお伝えしなければならないことがあります」

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隣につ郎の亮介さんが、怪訝そうに奈央の顔を覗き込んだ。 「奈央……? 何を言って――」

奈央は夫の制止を完全に無した。 そして、マイクを両でく握り締め、会の隅の私を指差した。

「あそこに座っている女性。私の席次表では『母』となっている森本佳代さんですが」

瞬で、会からざわめきが消えた。 ピアノの演奏者が戸惑ったように音を止め、完全な静寂が訪れる。

「彼女は、昨の夜、私の名の横にあった『母』の文字を、自分ので塗り潰しました」

息を呑む音が、あちこちから聞こえた。

「私が歳のから育ててくれたです。私は本当の母親だとって信じていました。ですが彼女は、私の結婚式の夜に、『もうあなたの母親をやめる』と宣告したのです」

奈央の瞳から、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。 だが、その表は泣き崩れる娘のものではなかった。 周囲の同を集め、私をこので完膚なきまでに断罪するための、計算された「告発」の顔だった。

「私のれ台を壊し、親族の席にも座らず、あんなところで面して座っている。それが、私が信じてきたの本当の姿でした」

会が凍りついた。 誰も呼吸すらしていないかのような、苦しい沈黙。 招待客たちの線が、斉に、針のように私へと突き刺さる。

軽蔑、好奇、揺、嫌悪。 肌がチリチリと焼けるような、無数のたい線。

郎側の親族が、あからさまにそうに顔を見わせているのが見えた。 良としてられる野寺の両親は、顔を青ざめさせ、固まっている。

これが、奈央の復讐だった。 「悔しないで」という昨夜の言葉の。

彼女は、自分自の結婚式を塗れにしてでも、私に「恩らずの毒母」という烙印を押し、こので座して謝罪させようとしたのだ。

私が世体に負けて泣き崩れ、「ごめんなさい、私が悪かった」と親族席に駆け寄ることを信じて疑っていなかったのだ。

だが。

私の喉の奥は、これ以ないほど静かだった。 恐怖も、羞恥も、議なほど湧いてこなかった。

の私の献は、この娘のによって、たった分のスピーチで「なかったこと」にされた。 その事実が、私を完全に自由にした。

カツ、カツ、と革靴のい音が静寂を破った。

親族席から、夫の俊彦が歩みてきた。 そのには、折り畳まれた枚のい封筒が握られていた。

俊彦は郎婦の横を通り過ぎ、会の央を真っ直ぐに横切って、私のテーブルへとやってきた。

80を超える参列者の線が、俊彦のきを追う。

俊彦は私の目のにつと、酷に歪んだ笑みを元に浮かべた。 見ろすその目は、私を支配してきた男の、傲そのものだった。

「聞いたか、佳代」

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