"「明日から母をやめます」結婚前夜、席次表を消した私" 第1話
娘が歳になったばかりの、私はこのに嫁いできた。
それから。
をせば夜通し背をさすり、学の弁当は度もに頼らず詰めた。 授業参観も、成式の振袖選びも、初めて彼氏をに連れてきたの夕も。 血の繋がりなんて度も言い訳にせず、自分のの真んにあの娘を置いてきたつもりだった。
娘はずっと、私を「お母さん」と呼んでいた。
その娘の結婚式を翌に控えた、曜の夜のことだった。
「お母さん、の最終の席次表、式から届いたから確認して」
リビングのドアがき、奈央が慣れた取りで入ってきた。 テーブルのに放りされた質なには、箔の装飾が施されている。
最列、婦側の主賓席。 その央に並ぶつの名。
「婦の父 森本俊彦」 「婦の母 森本佳代」
その文字を見つめたまま、私の指先はピクリともかなかった。
「……ねえ、奈央」 「なに? く見てよ。朝いんだから」
奈央は鏡を取りし、マツエクの仕がりを気にしながらぞんざいに言った。
「あなた、お父さんから何か聞いてる?」 「何か、って?」 「来から、私が週に回あなたの居に通って、夕飯の作り置きと掃除をすること。それから、子供がまれたら私がそのまま同居にい形で面倒を見ること」
奈央のが止まった。 けれど、慌てる様子は微もなかった。
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むしろ「なんだ、そのことか」と言わんばかりに、さく息を吐きした。
「ああ、それね。お父さんが話してくれたんだ。助かるよ。亮介さんの仕事も忙しいし、私、料理苦だしさ」
悪気のない、あまりにも当然という響き。
胃の奥が、ぎゅっと雑巾のように絞られた。
「私、そんな約束、度も承諾していないわよ」
私の声は、自分でも驚くほどく乾いていた。
「は? 何言ってんの?」
奈央が眉をひそめた。
「お父さんが言ってたよ。『佳代には俺から話をつけてある』って。お母さんだって、にずっとでいたって暇でしょ? 孫の顔見られるならそのほうがいいじゃん」
暇。
。 介護の義母のオムツを替え、夫の嫌な音に怯えながら度の飯を作り、パートで計の穴を埋めてきた私のが、この娘の目には「暇」と映っていた。
先週、夫の俊彦に詰め寄ったときの言葉が、の奥で蘇る。
『おはどうせ、にいたって何もやることがないだろうが。奈央が頼りにしてるんだから、母親ならんで引き受けるのが筋だろ』
あの、私ははっきりと断った。 もうのためのは終わりにしたい、と。
それなのに、夫は私の言葉など最初からしないかのように握りつぶし、娘とで私の余を勝に配分していたのだ。
居のくにアパートを借りさせ、呼びせばいつでも駆けつける都のいい政婦として。
「……私、断ったのよ。お父さんにはっきりと」
「え、なんで?」
奈央の目が、信じられないものを見るように見かれた。
「なんで断るの? 私のことがくないの? 実の親じゃないから、そこまで面倒見切れないってこと?」
血が繋がっていない。
、私が最も恐れ、最も傷つかないように腫れ物を触るように避けてきたその言葉を、奈央はいとも簡単に、私を脅迫するためのナイフとして突きつけてきた。
私がその言葉にいことを、この娘は完全にっていた。 そう言えば、私が泣いて折れるとっていたのだ。
喉の奥がカラカラに渇いていく。 だが、臓の奥で燃え盛っていた炎が、ふっと瞬でたい氷へと変わった。
私は何も言わず、胸ポケットから本の黒い油性ペンを取りした。
キャップをす。 カチリ、とさな乾いた音が静かな部に響いた。
「お母さん……?」
私はテーブルのの席次表にを伸ばした。
そして。
「婦の母」
その文字のに、迷いなく、太い黒い線を横文字に引いた。
キュッ、とが擦れる鈍い音がした。 度では消えない。 もう度、往復するように塗り潰した。
「……は?」
奈央のから、抜けな声が漏れた。
「ちょっと……何してんの? おかしくなったの!?」
「、式には席するわ」
私はペンを置き、まっすぐに娘の目を見つめた。
「でも、親族の席には座らない。
番ろの、目たない席に置いてもらうよう、式に自分で連絡する」