"白紙の退職届を突きつけた夫が、3ヶ月後に「頼むから辞めないでくれ」と叫んだ日" 第13話
テーブルのに残されていた、信庫の融資向確認の控え。
ビリッ。
静寂の、が引き裂かれる乾いた音が響いた。
「お、おい! おふくろ、何してんだよ!」
夫が血相を変えて駆け寄ろうとした。 だが、義母が子の肘掛けを激しく叩いた音に、が止まった。
義母は懐から、古いの縮緬の袱紗を取りした。 震えるでそれを解くと、から現れたのは、あきる野のの『登記事項証』と、角がし欠けた『実印』だった。
義母はそれを、夫ではなく、私の目のに力任せに押しした。
「由美さん」
義母の声は、をうようにく、掠れていた。
「の番で、休を取りなさい。私を、駅の産に連れてきなさい」
夫の顔から、瞬にして全ての血の気が引いた。
「な……おふくろ、何言って……」
「このを、今すぐ売るわ」
義母は夫を見据えた。その目は、完全に息子をとして切り捨てていた。
「更にして、現化して、全部私の齢者宅の入居にする。……あんたの会社には、円も渡さない!」
夫はそのに凍りついた。 から滑り落ちたデパの袋が、絨毯のに鈍い音をてて転がった。
「おからも母さんを説得してくれよ!」
リビングのドアが乱暴に閉まる音とともに、夫の叫び声が夜の内に響いた。
義母が部に引き取った、夫はずっとダイニングテーブルのを往復していた。
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髪はボサボサに乱れ、額には脂汗が滲んでいる。
「あきる野のを売るなんて、正気の汰じゃない! あそこは親父が遺してくれた、佐藤の最の砦だぞ! あそこを担保に入れなきゃ、信用庫の融資が通らないんだよ!」
夫は私の目のでち止まり、縋るように両を伸ばしてきた。 その指先が、私のカーディガンの袖を掴む。
「由美、頼むよ。お、嫁として何もあいつに仕えてきたんだろ? おの言うことなら、しはを傾けるはずだ。『息子の事業を潰す気か、を売るのはやめてくれ』って、母さんにをげてくれ!」
袖を掴む力に、かつての尊な傲さはなかった。 ただ、自分の延命のためにのを勝にかそうとする、浅ましい依だけが脈打っていた。
私はえたで、夫の指を本ずつした。
「健さん」
静かに、夫の瞳の奥を見つめ返す。
「あなたは、お母さんが施設に入るのが配なの? それとも、自分の融資が消えるのが惜しいだけ?」
夫の呼吸が、ピタリと止まった。
喉仏がし、が引き攣るようにく。
「な……何を言って……俺は、族のことを――」
「族のこと?」
乾いた笑いが、胸の底からこぼれそうになった。
「自分の会社を維持するために、私のキャリアを奪おうとした。それが失敗したら、今度は老いた母親の唯の活基盤を、無断で抵当に入れようとした。
……そのどこに、族がいるの?」
夫は言葉を失い、ずさりした。 その瞳に宿ったのは、反省ではなく、都のいい共犯者になってくれない妻への絶望だった。
「おは……酷だ。血も涙もないのかよ」
絞りすような夫の呟きに、私は度だけさく息を吐いた。
「ええ。酷よ。あなたの舟に、これ以巻き込まれる義理はないもの」
翌週、事態は容赦のないスピードできした。
義母は頑として譲らなかった。 休を取った私が付き添い、駅の産会社で「専任媒介契約」を締結した。 あきる野のは、幹線にいこともあって買いがすぐに見つかった。売却額は、千百万円。
その全額が、夫の会社の座ではなく、義母の個座へと振り込まれた。
同に、理恵がいた。 理恵の経営する居宅介護支援事業所を通じて、隣町にある「サービス付き齢者向け宅(サ)」の配が完したのだ。
体制で護師と介護士が常駐し、個にはバリアフリーのトイレとミニキッチンが完備された、終の処。 入居と当面の払い費用として、の売却益から百万円が気に支払われた。
残りの資は、すべて信託の見制度支援信託へと預け入れられ、義母自の活費として毎定額が支される仕組みにされた。
夫が円たりとも、指本触れられない鉄壁の砦。
引っ越しのの朝、自宅の玄関には、義母の私物を詰めた段ボールが箱並んでいた。