"白紙の退職届を突きつけた夫が、3ヶ月後に「頼むから辞めないでくれ」と叫んだ日" 第2話
購買部のフロアに入ると、すでに数の同僚がデスクでPCをいていた。 自席に向かおうとした私の界に、廊の奥から歩いてくる直属の司、田美咲部の姿が入った。
歳。途入社ながら、圧倒な切れと理性で購買部のトップにり詰めた女性だ。 私より歳若い彼女は、私の仕事ぶりを評価してくれる方で、ある点において常に徹な線を向けていた。
私の夫が、取引先の社であるという事実だ。
美咲部が私のでを止めた。 には、見覚えのあるベージュの袋と、枚の受付伝票が握られていた。
「佐藤さん。始業に、し第会議まで来てくれる?」
声に抑揚はなかった。 だが、その鋭い差しが、ただの業務連絡ではないことを告げていた。
「失礼します」
ガラス張りの第会議のドアを閉めると、密閉された静けさがに痛かった。 美咲部はテーブルの央に、持っていた袋をコトリと置いた。 座にある級菓子の包みだった。
「これ、今朝番に本社の総受付に届いていたの。私宛てに」
「……部宛てに、ですか?」
「ええ。差は、佐藤商事の佐藤健社。あなたのご主ね」
臓が、トクンとな音をててねた。
「には菓子折りと、丁寧なが入っていたわ。『平素より格別のご配を』という候の挨拶に続いてね、こうかれていたの」
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美咲部は元のスマートフォンを操作し、撮したの文面をスクロールした。 画面に表示された文字を追うにつれ、私の界からサーッと血の毛が引いていった。
『――さて、弊社の取引窓を担当しております弊妻・由美につきまして、誠に勝ながらの都により、来末をもちまして退職させる運びとなりました。つきましては、今のグループ全体の調達改革において、特定の取引先との癒着や利益相反の疑を招かぬよう、妻を速やかに購買の審査ラインからしていただきたくじます――』
息が止まりそうだった。
指先が震え、太ももので握りしめたスカートのをく掴んだ。 喉の奥に、苦い胆汁のようなが広がっていく。
介護のため? おふくろの面倒を見てくれ?
全部、嘘だったのだ。
夫が私に退職届を突きつけた本当の理由。 それは母親の腰のことなどではなかった。
今期、がホテルグループがめている「全社サプライヤー総点検」。 続いてきた慣睦な取引を見直し、コスト削減とコンプライアンスの徹底を図るための規模な調達改革だ。
夫は恐れていたのだ。 妻である私が購買部に居座り続けることで、「内への利益供与」を疑われ、佐藤商事が次期の定期契約から弾きされることを。
自分が契約をもぎ取るために。
競社をし抜いて、ホテルの利権にしがみつき続けるために。 かけて積みげてきた私のキャリアを、私のらないところで、勝に差しそうとしていたのだ。
「妻を辞めさせるから、うちを切れとは言わせない」 そう言わんばかりの、あまりにも浅ましく、勝な裏作。
「……らなかったのね」
美咲部の静かな声が、凍りついた私のに届いた。 私は顔をげることができなかった。恥ずかしさと、りと、けなさで、奥歯がガタガタと震えていた。
「申し訳、ございません……」
絞りすようにた声は、掠れていた。
「プライベートな事を職に持ち込まれ、部にまでこのようなご迷惑を……」
「謝罪を聞きたいわけじゃないわ」
美咲部は子の背もたれに体を預け、腕を組んだ。
「佐藤さん。私はね、あなたの実務能力をく買っているの。このフロアの誰よりも現をっているし、数字の裏にあるサプライヤーの懐事まで正確に見抜く目がある。だからこそ、ずっと歯がゆかった」
美咲部の瞳が、私をまっすぐに見据えていた。
「なぜ、あの程度の零細卸に縛られているのか。あなたのの献が、あの会社のを打った納品をどれだけ裏で救ってきたか。私が見抜けていないとでもっていた?」
「それは……」
「ご主はね、完全に勘違いしているわ」
美咲部は淡に笑った。その笑みには、ビジネスの現で無能なを切り捨てるの徹さが宿っていた。