"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第17話
そんな当たりのが、どれほど贅沢で、どれほど尊いものだったかを、私は毎のように噛み締めていた。
義母は結局、介護度ががったことで、親戚の仲介によって郊の特別養護老ホームへ入所が決まったとの噂で聞いた。 健が毎のわずかな費用すら払えず、親戚にをげて回ったが、誰としてを貸す者はいなかったという。 かつて親戚ので自の息子を誇らしげに見せびらかしていた義母は、今では面会に来る息子の顔すら判別できなくなっているらしい。
因果応報。 その言葉すら、今の私のには波紋つてなかった。 彼らのは彼らのものであり、私のとは度と交わらない。
午。
の事務所では、定を告げるチャイムが鳴り響いていた。
【全プロセス推】の私のデスクのには、綺麗に揃えられたファイルが積まれている。 私が主導して改訂した『全社・原材料トレーサビリティ管理規程』。 来週から、本社の全でこの規程が正式採用されることが、先の役員会で決定していた。
格された私の肩は戻らない。 料も以より減ったままだ。 けれど、もう誰も私のを通り過ぎるに、笑を浮かべる者はいなかった。
カバンに帳をしまい、パソコンをシャットダウンしようとした、そのだった。
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机のに置かれた私用のスマートフォンが、く振した。
画面に表示された通。 『健』
婚届をして以来、度も鳴ることのなかった名だった。
指先を画面に滑らせ、メッセージをく。
『母さんが、最めっきりって、飯もろくに喉を通らないんだ。昨夜からずっと、由美の作った筑煮がべたいって泣いてる。今週末だけでいい。だけでいいから、昔のを作りに戻ってきてくれないか。頼む』
画面の文字を見つめたまま、私は数秒、微だにしなかった。
りは湧かなかった。 呆れも、しみも、過の悔すら湧いてこなかった。
。 私が自分のを削り、自分のを差しし、自分の尊厳をすり減らして満たそうとしていたものの正体が、そこにあった。
彼らが求めていたのは、私ではない。 ただの、都よくく。 文句も言わず、痛がりもせず、いつでも自分の腹を満たしてくれる便利な。
私はスマートフォンのキーボードをタップした。
指先は度も迷わなかった。
『自分で作ってみたらどう? お義母さんも、そのうち慣れるわよ』
送信ボタンを押す。
すぐに画面を伏せ、テーブルのにカチリと音をてて置いた。 度と、その画面を見ることはなかった。
私はちがり、子の背にかけてあった紺のジャケットを羽織った。
机のから、い会議資料のファイルを抱え直す。
ドアノブにをかけ、押しける。
蛍灯のに満ちた廊の先、会議の扉がすでにかれていた。 には、しい、本社の監査役、そして緊張した面持ちで着席している奈緒をはじめとする現のリーダーたちが待っている。
「佐藤さん、準備はよろしいですか」
総務の担当者が、私に向かってくをげた。
「ええ」
私はく答え、胸を張って歩きした。
のを越えて、私の元は、もうどこにも揺らいでいなかった。
会議の扉をくぐる。 席の最座、役の席へ向かって、私は迷いなくんでいった。
今回の会議をかすのは、の顔を窺う妻でも、組織の顔を窺う部でもない。 私自だった。