"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第16話
午。 たいがる、私は庭裁判所の調にいた。
の事務机を挟んで、私の隣には代理の弁護士。 向かい側には、すっかりさく丸まった健が座っていた。
最に顔をわせてから、ヶ。 夫だった男の姿は、見るもなく変わり果てていた。
サイズのわなくなった古いスーツは肩のあたりが浮き、無精髭は髪交じりに伸び、爪のには取れない械油の汚れが黒く染み付いていた。 形の渡りをし、会社は事実の破産。 と自宅の抵当権は使され、残ったのは数千万円の負債だけだった。
「……由美」
健が、ひび割れた唇から掠れた声をした。
「母さんが、もう限界なんだよ。毎晩、暗い部で泣き叫んでる。『由美さんに謝りたい、連れ戻してくれ』って……。俺だって、朝から晩まで雇いの配送でってて、母さんの飯も作れないし、オムツも替えられないんだ」
調委員のが、眉を寄せて健を見つめている。 健は机に両をつき、額を押し付けるようにしてを乗りしてきた。
「頼むよ、由美。俺が悪かった。おの言う通り、俺は自分のことしか考えてなかった。でも、緒にいただろ? 母さんだっておのことを本当の娘みたいにってたんだ。しだけでもいい、戻ってきて事をしてくれないか。料の差し押さえだけは勘弁してくれ……!」
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私は、テーブルのに置かれた類から目をさなかった。
『婚協議および財産分与』
そこには、私の父が遺してくれた特財産の完全な保全、健の正アクセスに対する慰謝料の算定、そして負債の完全な切りしが、淡々とした法律用語で網羅されていた。
「佐藤健さん」
弁護士が、徹な声で遮った。
「本お集まりいただいたのは、婚姻関係の解消と清算条項の確認のためです。同居や介護の求は、調の趣旨から完全に逸脱しています」
「弁護士先は黙っててください!」
健が血った目を剥きしにして叫んだ。
「これは夫婦の問題だ! 俺が困ってるに助けうのが、夫婦の義務だろうが! お、親戚からなんて言われてるかってんのか!? 夫が破産した途端に見捨てる、な悪妻だってろ指差されてるんだぞ!」
世体。 親戚の目。 最まで、この男のからてくるのはそれだけだった。
私が、どれだけの孤独と過労に耐えてきたのか。 どれだけのいで、義母の排泄の世話をし、夫の借の補填をしてきたのか。 そんなことは、この男のの片隅にすらしていない。
「健さん」
私は静かに、呼びかけた。
健がビクッと肩を揺らし、すがるような目で私を見た。
「あなた、お母さんのために私が作ったご飯を、いつも何て言ってましたか?」
「え……?」
「『がい』『際が悪い』『これくらい専業主婦なら当たりにやれ』。度だって、ごちそうさまと言ったことはありませんでしたね」
健の喉が、空気をみ込むようにヒクといた。
「私の料を遣いだと笑い、私の仕事をただの雑用だと見して、最は私の名を騙って会社から追いそうとした。……あなたが捨てたのは、私の仕事じゃありません」
私はペンを取りげ、元のの番に、自分の名を迷いなくき入れた。
「私というそのものを、あなたが自分で切り捨てたんです」
カリカリという乾いたペンの音だけが、調に響いた。
「サインしてください。破産管財との続きも、これで完全に切りされます。あなたが背負った借は、あなたがで返してください」
健は震える指でペンを握り、自分の名をき始めた。 涙が机のに落ちて、青いインクがわずかに滲んだ。
かつてリビングでふんぞり返り、ビールのプルタブを弾いていたあの傲な男は、もうどこにもいなかった。
が訪れていた。
URの団の畳半の部には、窓から柔らかい差しが差し込んでいた。 さな洗濯が脱のい音をて、ベランダには私のいシャツが枚だけ、よいに揺れている。
誰の嫌な音にも怯える必のない朝。
誰の理尽な求にも急かされることのない夜。
スーパーで買ってきたさな鮭の切りを焼き、自分で淹れたい緑茶をすする。