"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第8話
私が黙り込めば、夫の会社に仕事を回してを封じる。
どっちに転んでも、田島は痛まない。 そして私は――最初から、裁く側のなどではなかった。
午。
自宅の玄関をけると、を突くような線の匂いと、煮詰まった醤油の匂いが漂っていた。 リビングの引き戸をけた瞬、え切った空気が肌を刺す。
ダイニングテーブルの央に、健が腕を組んで座っていた。 その向かいには義母が、嫌そうに仏頂面で座布団のに腰をろしている。 テーブルのには、付かずのえ切った惣菜のパックが転がっていた。
「遅かったじゃないか」
健の第声は、気を含んだ鳴りのようだった。
「昼、会社で俺に恥をかかせてくれたそうだな。警備員を呼ぶだと? 誰のでこれまで飯をってきたとってんだ」
「由美さん、夕飯はまだなの?」
義母が甲い声で割り込んでくる。
「スーパーの惣菜なんて、塩分がくて私の体に毒だっていつも言ってるでしょう。自分の仕事にかまけて、寄りにこんな残飯みたいなものをわせる気?」
私は靴を脱ぎ、鞄をに置いた。 コートも脱がず、リビングの入りにったまま、を見ろした。
喉の奥の渇きは、もう消えていた。 全の血が、驚くほど静かに、たく巡っている。
「私の料で、こののローンの半分と費、あなたの国民の追納分を払ってきたのよ、健さん」
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「あ……?」
健の眉が吊りがる。
「度だって、あなたに養ってもらった覚えはありません」
「何を気なを……!」
健がちがり、ダイニングテーブルを蹴ばす勢いでを乗りしてきた。
「田島さんから話があったぞ! お、半の原料テストで自分で承認印を押してただろうが! 自分の始末を棚にげて、夫の会社を巻き込んで会社を脅すなんて、がおかしいんじゃないのか!?」
義母が嬉しそうに目を丸くし、扇子で膝を叩いた。
「まあ! やっぱりそうなのね! で偉そうな顔をして、でも会社でも迷惑ばかりかけて。健、こんな疫病神みたいな嫁、く追いしなさい!」
健はポケットから煙を取りそうとして、苛たしげに指を震わせた。
「田島さんは言ってくれたぞ。『由美さんが庭の病疲れでノイローゼ気になり、正常な判断ができなかったと認めて休職届をすなら、半のミスは問にしてやる』ってな!」
健の元に、卑屈で醜い笑みが戻ってきた。
「ありがたい話じゃないか。おが素直に病気療養ってことでを引けば、会社のラインはから再する。俺の段ボールの納品も無駄にならない。おも、会社を懲戒解雇にならずに済むんだ。これでおも母さんの面倒に専できる。丸く収まるだろ?」
……丸く収まる。
この男にとって、真実がどうであるかなど、最初からミリの価値もないのだ。
毒のリスクも、アレルゲンの恐怖も、私が守ってきたプライドも。 すべては、自分の百万円の段ボール代と、体裁を守るための贄。
「病気療養の休職届?」
私は静かに問い返した。
「そうだよ。、田島さんのところにってをげてこい。『夫の病疲れで錯乱していました』って言えばいいんだよ。おのそのつまらないで、俺の会社を潰す気か!」
「お断りします」
健の表が凍りついた。
「……は?」
「休職届はしません。そして、あなたとは別居します」
私は鞄のから、枚の類を取りした。 昼休みに会社のくの政士事務所に駆け込み、作成してもらった正式な面。
『別居および婚姻費用分担請求(控)』
それをテーブルの端、え切った惣菜のパックの隣に滑らせた。
「な……んだよ、これ」
「今限りで、このをます。荷物は最限のものだけまとめました。私の与座から引き落とされていた活費の補填も、すべて止の続きを取りました」
「ゆ、由美さん、あなた正気!?」
義母が切り声をあげてちがった。
「私の薬の管理は誰がやるの!? 来週の親戚の法の準備はどうするのよ! 男の嫁のくせに、を捨てるなんて世が許さないわよ!」
「お義母さんの面倒は、実の息子である健さんがご覧になってください」