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"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第6話

几帳面で、真面目で、私を「目標の先輩です」と慕ってくれていた。

「奈緒ちゃん」

私はしだけ張っていた表を緩め、声をかけた。

「ごめんなさいね、現がバタバタして。でも、オニオンエキスの件、やっぱり類の性が取れないの。商社側に再提を求めているんだけど、奈緒ちゃんの方でも先週の抜き取りサンプルのデータ、もう度確認してもらえる?」

私は方を見つけたから、元のファイルを差しそうとした。

だが。

奈緒は、私の元を見ようとはしなかった。 その顔は蒼で、唇を真文字に結び、どこか怯えたような、そしてく失望したような目で私を見つめていた。

「……由美先輩」

奈緒の声は、掠れていた。

「どうしたの? 体調でも悪いの?」

「先輩、もう……やめてください」

「……え?」

奈緒ののポケットから、つ折りにされた茶封筒が取りされた。 彼女の指先が、刻みに震えているのが分かった。

「これ以、田島部を追い詰めるのは……現を巻き込むのは、やめてください」

「奈緒ちゃん、何を言っているの? 私は現を巻き込みたいわけじゃないわ。アレルゲンの確認が取れていない原料を、にすわけにはいかないでしょう?」

「本当に、それだけですか?」

奈緒の瞳に、鋭いが宿った。 それは、私に向けられていた敬ではなく、裏切られたが向ける、拒絶の線だった。

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奈緒は、茶封筒のから枚の類を引き抜いた。 そして、私のデスクのに、叩きつけるように置いた。

「これを見てください」

それは、黄く変しかけた、半の『原料試験導入・ライン適評価』の原本だった。

「……これは?」

「今回問題になっている、輸入オニオンエキスの初期ロットです。半、コスト削減のためにテスト導入されたの記録です」

奈緒の指が、類の最部、最終承認欄をく指し示した。

私の臓が、ドクンと嫌な音をてた。

そこには、見慣れた印があった。 朱のインクで、鮮に押された角い枠。 【品質保証部 主任】

そしてその横に、きれいに傾きもなく押された、私の私印。

【佐藤】

私の喉が、完全に詰まった。

「……私の、印鑑……?」

「はい」

奈緒の声が、たく実験の壁にね返った。

「半、この原料を初めてテストラインに流す、類の備を指摘したのは私でした。のサプライヤーからのアレルゲンフリー証が届いていないから、テストを延期すべきだと、私は言いました」

記憶の底から、たいが噴きしてくる。 半。 の繁忙期。親会社の監査対応。義母の最初の入院。 連続く残業と、での病。朦朧とする識ので、田島に「で類は差し替えさせるから、まずラインのテストだけ承認してくれ」と頼まれ――。

『丈夫よ、奈緒ちゃん。

これはあくまで予備テストだから。本採用までに類を揃えさせる条件で、私が判を押しておくわ』

自分が発したはずの言葉が、の奥で々しく蘇った。

「先輩はあの、条件付きで承認しました。でもその、本採用に至るまで、先輩はこの原料の追加類を度も確認していません」

奈緒の目から、粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。 だが、その表は徹だった。

「田島部が言っていました。『佐藤主任は、自分が半につけたのを、今になって周囲に責任転嫁して騒ぎてているだけだ』って。『庭がくいかなくなって、引退のを綺麗に飾りたいから、正義の方のふりをしてを止めているんだ』って」

「違……奈緒ちゃん、それは……」

「違わないじゃないですか!」

奈緒の痛な叫びが、静寂を切り裂いた。

「この判を押したのは、由美先輩、あなたです! あなたが自分でリスクを見逃してラインに通した原料なんです! それを今さら、夫の会社がどうとか、コンプライアンスがどうとか……私たち現を巻き込んで、全部のせいにするんですか!?」

デスクのに置かれた承認の、赤い【佐藤】の印が、私を嘲笑うかのように鮮に浮かびがっていた。

私は、息をすることすら忘れ、その類を見つめ尽くしていた。

私は正義などではなかった。 夫を糾弾し、司の正を暴く清廉潔な告発者などでは、最初からなかったのだ。

この破滅のを切ったのは、でもない、半の私自だった。

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