"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第3話
『品質管理責任者の解除パスワードが必です』
私は自分の指で、変更したばかりのパスワードを打ち込んだ。 これで、の自倉庫のゲートは物理にかなくなる。のシステム全体に、緊急止のフラグがった。
「……由美さん!」
背で、荒々しくドアがく音がした。
振り返ると、の田島が肩をらせてっていた。 いつもは綺麗になでつけられている髪交じりの髪が、寝癖のせいで乱れている。スーツのネクタイも歪んでいた。
「君、何をやっているんだ! 昨の夜、健くんから退職の続きを取ったと連絡があったはずだぞ! なぜここにいる!」
田島の目は血り、にはコンビニの缶コーヒーが握られていた。
私は姿勢を正し、机のに置いた類を指先で示した。
「私の業務用アドレスから送信されたメールは、夫による無断送信です。正アクセスとして先ほど事部と報システム部に報告しました。私は退職していません」
「な……っ」
田島は絶句し、それから苦々しそうに額を押さえた。
「健くんも余計な真似を……いや、それは庭内の問題だろう! 今問題にしているのは、このラインのロックだ! なぜ『熟成旨み醤油だれ』を止めた!」
「ごのはずです」
私は歩も引かず、田島の目を正面から見据えた。
「今回から切り替えられた原料――オニオンエキスの調達ルートについてです。
広告
仕入れ先が原料メーカーから、先設されたばかりの輸入商社に変更されています。添付されている成分分析表には、特定原材料に準ずるアレルゲン物質の微量混入(コンタミネーション)に関する保証データが欠落しています」
「そんなものはから追認類を取り寄せれば済む話だ! 流通チェーンとの特売契約が今からなんだぞ! 初回の納品が遅れたら、億単位の違約が発する! その責任を君で取れるのか!」
田島が鳴り声をあげ、私のデスクの端を拳で叩いた。 ドスン、という鈍い音が内に響く。
臓が嫌な音をててねた。 だが、私の声は自分でも驚くほどえ切っていた。
「品表示法に違反した疑いのある製品を、図して荷することはできません。もし万が、麦やピーナッツの篤なアレルギー事故が起きれば、違約どころでは済みません。会社の信用は完全に失墜します」
「袈裟なんだよ、君は!」
田島は苛ちを隠そうともせず、乱暴に腕を組んだ。
「もこのにいて、現の空気がまだ分からないのか? の類の遅れなど、どのメーカーだって現の裁量で融通を利かせているんだ! 真面目なのは美徳だが、融通が利かないは組織の害悪なんだよ!」
そして田島は、ふっと声を潜めた。
脂ぎった顔を私にづけ、ねっとりとした、脅しを含んだ声音で囁いた。
「健くんの会社の台所事、君もっているだろう」
私の背筋を、たい氷が滑り落ちていった。
「……え?」
「健くんのところの『佐藤パッケージング』だよ。資繰りがショートしかけて、元の信からも追加融資を断られたそうじゃないか。今回の醤油だれの特注装段ボール万箱、健くんの会社が全量受注することになっているんだよ」
田島はポケットからハンカチを取りし、首筋の汗を拭った。
「うちのの指定業者枠に、無理やりねじ込んでやったんだ。私の推薦でね。もしこの製品の荷がんでラインが止まれば、当然、包装資材の契約もすべてだ。違約で、健くんのは確実に潰れるぞ」
田島の唇が、歪んだ笑みを形作った。
「夫を助けたいとわないのかね? 君がここでを張ることは、自分の庭の首を絞めることと同じなんだよ」
ので、バラバラだったピースが、恐ろしい音をてて噛みっていく。
健がなぜ、あんなにも急いで私の退職願を偽造したのか。 なぜ、私が会社を辞めることを、あんなにも確信し、満げに笑っていたのか。
『男の嫁らしく母さんの面倒を見ろ』
あれは、ただの実に過ぎなかった。
健はっていたのだ。 私が品質管理で、この商品の荷を頑として拒否していることを。
そして田島から、「妻をあの席から退かせなければ、契約は破棄する」